なぜ、全部自分でやってしまう人は仕事ができないのか?

 話を戻そう。「仕事を任せられない人」「全部自分でやってしまう人」の労働生産性が低い理由については、比較優位の原理を仕事に置き換えるとよくわかる。

 第2回ノーベル経済学賞(1970年)受賞者ポール・A・サミュエルソン(1915~2009)は、弁護士と秘書の関係で比較優位の原理を説明している。

 ある弁護士は秘書業務にも精通していて、文書作成も秘書より早い。しかし、秘書業務まで弁護士がやると、その時間でこなせる弁護士業務の利益を逃す(逸失利益)。すると弁護士業務の報酬が減り、事務所の経営がうまくいかなくなる。つまり、秘書には秘書業務に比較優位があるわけだ。このように、仕事においてもそれぞれの比較優位を意識することが、個人、そして組織全体の生産性を上げることになるのである。それゆえ、すべて自分でやってしまう、人に任せられない人は、全体の労働生産性を低くしてしまい、売上も利益も落としてしまうことになる。

 比較優位の原理のように、知っておくと仕事の考え方や質に影響を与える経済学思考は、他にもいくつもある。ビジネスマンとして最小限の経済学の知識は身につけておきたいという方は、ぜひ拙著『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』を参考にしていただけると幸いだ。