「ええ、お話の内容は沙さんも判っているようです。それで、もし白で統一するのでしたらAグレードかABグレードになりますから、別の値段になると言っていますが……」

 彼女の顔色が変わった。

「そんな話は聞いていないわ。最初にちゃんと説明してくれないと」

 彼女は両腕を腰にあてて仁王立ちになる。ノースリーブのお蔭で露わな二の腕から腋にかけての白い肌が眩しくて、幸一は目を逸らすように沙総経理へ顔を向けて通訳した。

「最初に各グレードのサンプルを見せて、その中から彼女が自分でBCグレードの商品を選んだんだ」

 反論を伝えると、彼女は幸一を沙総経理の代わりに責め立てた。

「最初の説明の時には、グレードの話なんか出なかったわ。AとかABとかBCなんて、今更言われても困ります。あなた、ちゃんと彼に通訳してちょうだい」

 脇から見世物を見るようにニヤニヤと笑っていた岩本会長が、遠慮がちに口を開いた。

「お嬢さん、桐は土壌や水の影響で赤く変色したり黄色に染まった部分が出てくるんですよ。これは自然のなせることだから仕方がない。だから、高級箪笥に使うような白くて柾目だけのものをAグレード、白いが板目柾目混みのものをABグレード。そして、色ムラも許容した板をBCグレードと分けて、発注の際に指定するのが当たり前なんだが、ご存知なかったようですねえ」

 すると、彼女の顔色がみるみる変わった。それは話の内容のためではなく、てっきり中国人だと思っていた、首にタオルを巻いた老人が流暢な日本語を話し始めたからだった。

「あの……日本人の方だったんですか?」

 岩本会長が笑って応じる。驚いた彼女は、振り返って幸一にも尋ねた。

「もしかして、あなたも?」

 はにかみながらゆっくりと幸一も頷いた。

(つづく)