拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第19回の講義では、前回に引き続き「技術」に焦点を当て、拙著『仕事の技法』(講談社現代新書)において述べたテーマを取り上げよう。(田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 田坂広志)
深層対話力が身につく「反省の習慣」
今回のテーマは、「商談や会議直後の『反省の習慣』が、仕事の明暗を分ける」。このテーマについて語ろう。
ここまで4回の連載では、「仕事の技法」の根幹にある「深層対話の技法」や「深層対話力」の重要性について述べてきた。
では、この「深層対話の技法」と「深層対話力」を、日々の仕事において修得するには、どうすれば良いのか?
そのためには、第15回の講義(「商談や会議後の『5分間』が、圧倒的な差を生む」)で述べたように、日々の商談や交渉、会議や会合の後に、その場で交わされた「言葉以外のメッセージ」を振り返る「反省」を行うことが不可欠である。
しかし、そもそも、忙しい日々の仕事の中で、どのようにして、その「反省」の時間を見出し、「反省の習慣」を身につけるのか?
第15回の講義では、筆者が深夜の2時に、上司と銀座の深夜喫茶で、先ほどまでの商談と接待会合を振り返り、「反省会」を行ったことを述べた。
この話を読んで、こう思われた読者もいるだろう。
「仕事において『反省』の大切さは分かるが、商談や会議を行ったとき、いちいち反省の時間を取ることは、忙しい仕事の毎日において、無理だろう。いわんや、深夜2時の反省会など、無理だ…」
たしかに、深夜2時の反省会は、特別な場面であろう。あれは、上司が、私に、「いま終わったばかりの商談を、終わりっ放しにするな。必ず、そこで、どのような無言のメッセージが交わされたかを振り返れ」という大切な心構えを教えるために、敢えて行ったことであったと思う。
しかし、どれほど忙しくとも、日々の仕事において「反省」の時間を取ることは、それほど難しいことではない。
例えば、「商談の帰り道」を活用することである。
筆者は、後に、自分が上司になった時代、商談の後、帰りの電車やタクシーの中で、必ず、先ほど終わったばかりの営業の場面を振り返り、部下と「直後の反省会」を行っていた。そして、次の様な会話を交わしていた。
「こちらの企画説明はうまくできただろうか?」
「こちらの説明の最中、A部長の反応と心の動きはどうだっただろうか?」
「B課長の、あの質問に対して、あの答えをしたのは、正しかっただろうか?」
「C担当の、あの質問の背景には、どのような思いや考えがあったのか?」
「この後、A部長、B課長、C担当、三人の間で、どのような議論になるだろうか?」
「直後の反省会」においては、こうした質問を、次々と部下に投げかける。そして、自分も考える。それが基本的なやり方である。
すなわち、こうした質問を通じて、部下と共に、先ほどまでの商談を「追体験」し、その商談の中での「当方の発言」と「顧客の発言」を振り返り、そのときの顧客の表情や雰囲気も踏まえて、顧客の「心の動き」を想像し、顧客の心の中で、どのような思いや感情が動き、考えや思考が働いたかを、感じ取ろうとするのである。