読者の共感を得ることで救われた

【橋中】落合さんは、お母様の介護中もお仕事を守り続けられたわけですが、どういう工夫をされたんでしょう。
【落合】母を介護した約7年間は、仕事の範囲を狭めていました。海外取材のお話もいろいろあって、昔から行きたかったところもありましたが、お断りしました。海外に行ったのは1回だけ。北欧ですね。介護についての取材だったの。母の具合も落ち着いてきたので、これだけは見ておきたいと思って。

【橋中】そうだったんですか。
【落合】出かけている間に、何かあったらどうしよう。そういう気持ちがずっとあって。私がいてもいなくても、起きるときは起きるし、防げるわけではないのだけど、自分が仕事で海外に行っているときに、なにか起きたら、私自身が納得できないという思いがありました。

【橋中】わかります。
【落合】助かったのは、それを連載で書けたことですよ。それを読んでくださった方々から反応をいただけたことは、とても幸いでした。

【橋中】読者との交流が支えになったんですね。
【落合】そう。たとえば、「母が便秘になった。病院にいえば薬が出る。でも、常用させたくはない。他の薬も飲んでいるから」と書くと、いい方法を教えてくださったり。そういう出来事がたくさんあって、サポートしてくださった。読者との距離がとても近かった体験です。

【橋中】以前なら、記事を書けるのは、落合さんのように特別な方だけだったけど、今は、ブログなどで自由に情報発信ができる時代です。すべてじゃなくてもいい。書けるだけのことを書く。そこですよね。大きなヒントをいただいた気がします。
【落合】すべてを書いたら困ることもあるでしょう。でも、1行でも書いて、自分の気持ちに寄り添っていく。表現したことで少しだけ肩の力が抜ける。そういう気持ちで書いてみるといいんじゃないかな。自分のしていることの再確認にもなります。

【橋中】自分の気持ちを外に出すことは、現状を打ち破る1歩になりますよね。私自身、ブログを始めてから一気に世界が広がりました。
【落合】それを読んだ方がアドバイスをくださる。それだけでも大きい。

【橋中】新しい視点が入ると違いますよね。狭い考え方になりがちだから。
【落合】そう、自分が狭い部屋に入っているような。その閉塞感にどこかで風穴を開ける。それが自分への贈り物になりますよ。

【橋中】私がやってきたことと、つながります。苦しくて、やっと職場に相談ができるようになっても、すべてが言えるわけじゃない。それをブログで出す。記事を見た方がお返事をくださる。そうやって受け止めてもらえたことが何回もあります。
【落合】橋中さんは、相談してきた方々を受け止めつつ、ご自分のご家族を介護しているわけだから、通常よりはるかに大変です。介護問題のプロであると同時に、介護の当事者なんだから。

【橋中】いえいえ、そんな。
【落合】想像するだけで、ほんとうに大変だったと思う。病院のシステムを、なまじ知っているつらさがあるのではないですか。私は、何も知らないところから始めたから、そういう意味ではラクだったかな。