病院と家族をつなぐ存在が必要

【橋中】ここ数年、病院と患者や家族を橋渡しする、「医療ソーシャルワーカー」という方々が活躍するようになりました。最初は形式的な印象でしたが、今はしっかり対応してくださる方が増えたと感じます。
【落合】良医は、もちろんいらっしゃる。人間的に素晴らしい方も。でも、社会には隠れた階級制がある。常に先生と呼ばれているドクターは、それに慣れていらっしゃる。病気や治療に対する質問や、初歩的な問いすらも自分に対する異議申し立てだと思っちゃう面もあるようです。

【橋中】病院もある意味、ピラミッド型の組織ですから。
【落合】母が短期入院したとき、看護師さんにアドバイスをいただいた。「医療についての専門的な本を読んでいることを隠したほうがいい」と。母のベッドサイドに、本を置いていたんですね、無意識に。ああ、そういうこともあるのか、と。私は母の病気について知りたいと思っただけですが。

【橋中】家族を託していると思うから、むずかしいですよね。
【落合】おっしゃるように医療ソーシャルワーカーの方に、間に入っていただけると、とても助かります。

【橋中】介護保険制度がスタートする前から、母の介護が始まりました。当時に比べると、介護の現場で苦しんでいる人たちの声が、ようやく届くようになった気がします。素人が何も知らない状態で医療にぶつかり、質問しなければならない。それだけで時間を取られるんですよね。仕事があるにもかかわらず。
【落合】母の入院中、同年代の男性からずいぶん相談されました。男の方でも泣かれるのですよ。先生が病室に入ってきて、お母様の横で「もういいでしょう、この歳だから」と言うんだと。あまりにもあからさまでひどい話だけど、似たようなバリエーション、もう少しショックの少ないケースは、たくさん聞きました。でも、家族はなにも言えないし、抗議ができない。

【橋中】私は、こういう活動をするつもりはまったくなかったんです。でも、ドクターにもケアマネにも言えない人が大勢いるという現実がわかってきて、緩衝材というか、橋渡しする存在が必要だと思ったんです。
【落合】ほんとうにそう。

【橋中】介護に直面すると、手続きや通院に時間がかかる。仕事もしないといけないし、自分の身体もいたわらないと。負担をどうわかちあっていくか。まだまだ足りないけれども、困っている人が声をあげることで、担ってくださる方が少しずつ増えてくるんじゃないでしょうか。
【落合】心から望みます。

【橋中】落合さんは有名人なだけに、別のつらさがおありでしょうね。
【落合】傷ついているご家族がたくさんいらっしゃった。あのとき、どうして私たちの問いかけに応えてくれなかったのか。答えがあれば、苦しくても私たち家族はがんばれたのに、ちゃんと知らされていなかった。「施設に入って安心できると思っていたら、おなかをこわして、一部がゴムでできた下着をつけさせられた。夏であせもができて、かゆかったのでしょう、血まみれになるほどかいて、ただれていた。母をあんな状態で逝かせたことが悔しくて仕方がない」といったお手紙も。

【橋中】哀しいですね…。
【落合】病院や医師の対応に傷ついた人たち、反対に患者やその家族の対応に悩まされた医療関係者、どちらもおられるのでしょう。彼らのことを、いつかまとめたいと思っています。今は違ってきたんでしょうけど。

【橋中】声をあげることが社会を変えるのだけど、まだまだ痛みが残っているわけですね。
【落合】親御さんを見送ったあと、あの病院に行ったのが間違いだったのかと自分を責めている方もいる。こういう方を増やしてはいけない。心からそう思います。