「それでは、なぜ今回の視察に私を誘っていただいたんですか?」
幸一の問いに、隆嗣も問いで応じた。
「大連の仕事は12月いっぱいで終わる。その後の君の処遇は決まったのかね?」
「いいえ、まだ何も。おそらく日本へ戻り、仕入れか営業の仕事に回されることになると思いますが……」
口ごもる幸一、何ら明確な目処は立っていないままだった。長い立ち話になっていた。
「上海の彼女、川崎さんといったね、彼女とはどうなっているんだ?」
隆嗣の尋問が続く。
「はあ、お付き合いは続いておりますが」
「結婚しないのか?」
「いえ……私は真剣に考えているのですが、彼女は自分が年上で離婚歴があることを気にしているようで、なかなかその気になってくれません」
つい正直に話してしまった幸一へ、思いがけず隆嗣の強い言葉が飛んだ。
「そんな中途半端なままで日本へ帰ってもいいのか? 一度離れてしまったら、そのまま永久に失ってしまうかもしれないんだぞ」
その語気に幸一はたじろいだが、隆嗣もそんな自分に驚いた様子で、苦笑いしている。
「実は、この合弁会社が設立できれば、君に工場を任せたいと思っているんだ」
隆嗣の意外な提案に、幸一は息を呑んだ。
「徐州は、上海から飛行機でわずか50分だ。大連より近いぞ」
隆嗣がまた笑顔を向けた。
(つづく)