ニエンハ・シェ准教授は、ハーバードの中でも数少ない「日本語を話せる教授」の1人だ。ハーバードではリーダーシップと企業倫理を教えているが、かつて日本経済を研究したこともあり、日本に対する造詣も深い。

日本経済の停滞で、日本企業に興味がなくなったという学者が多い中、シェ准教授は「今の日本からも、昔の日本からも、学ぶ事はたくさんある」と断言する。日本人が世界に教えられることは何か。シェ准教授に聞いた。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月23日、8月19日再取材)

「もう日本から学ぶことはない」
そう考えるのは間違いだ

ニエンハ・シェ Nien-he Hsieh(謝念和)
ハーバードビジネススクール准教授。専門はジェネラルマネジメント。特にビジネス倫理の問題とグローバルリーダーの責務について研究。MBAプログラム及びエグゼクティブプログラム(リーダーシップ開発)で必修科目「リーダーシップと企業倫理」を教えている。同校の准教授に就任する前は、ペンシルバニア大学ウォートンスクールにて教鞭をとる。学生からの人気を集め、優秀教育者賞を受賞した。日本人の母親を持つこともあり、来日多数。2014年には慶應義塾大学にて特別講演を行った。近著に“Corporations and Citizenship: Democracy, Citizenship, and Constitutionalism”(共著、University of Pennsylvania Press, 2014)。現在、ビジネスの使命についての新刊を執筆中。

佐藤 シェ准教授はこれまで講演や研究などで何度も来日されているとのことですが、日本に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか。

シェ 私の母親は日本人なので、子どものころ、毎年夏休みになると家族とともに日本へ行って、祖父母の家で過ごしていました。研究対象として興味を持つようになったのは大学に入学してからです。

 1980年代、日本はアメリカに次ぐ経済大国に成長していました。私が入学したアメリカの大学でも日本企業、特に製造企業の事例がイノベーションの成功モデルとして教えられていました。経済を専攻していた私にとって、日本はマクロ経済と経営の両方の成功例を学べる重要な国でした。

佐藤 ところが、今は、アメリカで日本に興味を持つ学生や教員が少なくなったと聞いています。

シェ 私は今の日本からも、昔の日本からも、学ぶ事はたくさんあると思います。

 1990年代に入り日本経済が停滞すると、日本について積極的に研究しようとする学者もずいぶん少なくなりました。でも私は、「経済が成長していないということは、日本のやり方がもはや通用しないということだ。だからもう学ぶことはない」、と考えるのは間違いだと思います。

 たとえば、1970年代、1980年代、日本経済を成長させていた原動力は何だったのか。あの強いイノベーション力はどこから来たのか。1990年代、なぜ同じやり方が通用しなくなったのか。日本は今でも世界の未来のために様々な教訓を与えてくれる国だからです。