無数のソリューションを瞬間的に絞り込む
火曜日、チームは問題からソリューションへ焦点を移した。騒々しいブレーンストーミングを行う代わりに、各自が個別にソリューションをスケッチした。デザイナーだけじゃない、チーフ・ロボットエンジニアのテッサ・ラウ、事業開発責任者のイズミ・ヤスカワ、それにCEOのスティーブもだ。
水曜日の朝、スケッチとメモが会議室の壁に貼り出された。新しいアイデアのほか、前に却下されたアイデアや、十分検討されなかった古いアイデアもまじっていた。ソリューションは全部で23あった。
これをどうやって絞り込もう? 普段なら何週間もの会議やEメールのやりとりをもって決定する。でも僕らに許された猶予はたった1日。金曜日のテストが目前に迫っているのを、誰もがひしひしと感じていた。僕らは投票と体系化された議論によって、すばやく、静かに、いい争うことなく決定を下していった。
サヴィオークのデザイナー、エイドリアン・カノーソのとびきり大胆なアイデアもテストされることになった。ロボットに顔をつくり、ビープ音とチャイムを鳴らすというものだ。また、スケッチのうち、おもしろそうだが異論の多いアイデアもとり入れられた。ロボットが嬉しいときに小躍りするのだ。「個性を与えすぎじゃないかという不安はある」とスティーブはいった。「でもリスクをとるなら、いましかないだろう?」
「そうよ」とテッサはいった。「いま爆発したって、直せばいいんだから」。そういって、みんなの表情に気づいた。「やだ、言葉のあやよ。心配しないで、ロボットはぶっ壊れたりしないから」
木曜日になった。金曜日のホテルでの試験運用のために、あと8時間でプロトタイプをつくらなくてはならない。普通に考えたら間に合うはずがない。だが僕らはプロトタイプを時間内に仕上げた。それには2つのトリックがあった。
(1)大変な作業のほとんどはもう終わっていた。水曜日のうちに、テストするアイデアを決定し、テストするソリューションをくわしく書き出していた。残るは実行だけだった。
(2)ロボットはまだホテル内を自律走行する必要はなかった。この時点では、客室に歯ブラシを1本届けるという、限られたタスクをうまくやっているように見せればそれでよかった。
ロボットエンジニアのテッサ・ラウとアリソン・ツェーは、プレイステーションのコントローラーでロボットを操作できるよう、おんぼろのラップトップを使ってプログラミングを行い、ロボットの動きを微調整した。エイドリアンは巨大なヘッドフォンをかぶって効果音を制作した。僕らはiPad上にロボットの「顔」をつくり、ロボットのてっぺんにとりつけた。午後5時にはすべての準備が整った。