「運命の瞬間」を目撃せよ
金曜日、地元カリフォルニア州クパチーノのスターウッドホテルで、ゲストのインタビューを行った。朝7時、客室の壁に2台のウェブカメラをダクトテープで貼りつけて、即席研究室を立ち上げた。午前9時14分、1人めのゲストのインタビューの始まりだ。
ゲストの若い女性は客室の内装を見回した。白木の家具、ナチュラルなテイスト、新しめのテレビ。モダンで快適な部屋だけど、何も変わったところはないようね。とすると、このインタビューはいったい何のためかしら?
彼女の隣に立っていたのはGV(グーグル・ベンチャーズ)のリサーチパートナー、マイケル・マーゴリスだ。マイケルはこの時点ではテストの対象をまだ秘密にしておきたかった。彼はサヴィオークのチームが選んだ質問に答えを出せるように、インタビューの構成を練っていた。
マイケルは、「これから旅行の習慣に関する質問をするが、お届けものが来たら普段通り反応してほしい」と説明した。そしてメガネを押し上げながら、ホテルに到着したときの習慣について質問した。スーツケースはどこに置きますか? 荷物を開けるのはいつ? そして、歯ブラシを忘れたことに気づいたらどうしますか?
「さあ、どうかしら、たぶんフロントに電話するわね」
マイケルはクリップボードにメモした。そして「オーケイ」といって机の電話を指さし、「どうぞ電話をかけてください」といった。彼女はダイアルした。「かしこまりました」と受付係はいった。「すぐに歯ブラシをおもちします」
女性が受話器を戻すと、マイケルは質問を続けた。いつも同じスーツケースを使いますか? 最近旅行で何かをもってくるのを忘れたのはいつですか?
プルルル……机の電話が鳴って答えをさえぎった。女性が受話器を上げると自動メッセージが流れた。「歯ブラシのお届けに参りました」
女性は何の気なしに部屋を横切り、ハンドルを回してドアを開けた。そのころ本社のスプリントチームは画面に張りつき、彼女の反応を目を皿にして見守っていた。
「うそでしょ」と彼女はいった。「ロボットじゃないの!」
ピカピカのハッチがゆっくり開いた。中には歯ブラシが1本入っている。女性がスクリーンをタッチしてお届けを確認すると、チャイムとビープ音が鳴った。彼女がこの体験に5つ星の評価を与えると、小さなマシンは前後に体を揺らしてハッピーダンスをした。
「まあカワイイ!」と彼女はいった。「ロボットに会えるなら、もうここにしか泊まらないわ」
でも僕らを一番喜ばせたのは、この言葉じゃない。ライブビデオを通して見た満面の笑顔だ。それに、彼女がやらなかったこともだ――女性はロボットとのやりとりで、ぎこちないためらいや苛立ちを見せることはなかった。