鳩山前首相を辞任に追い込むきっかけとなった沖縄の普天間飛行場移設問題が新たな展開を見せ始めた。米上院のレビン軍事委員長ら超党派の有力議員が辺野古移設案を「非現実的で実行不可能」と断じ、嘉手納基地への統合を検討するよう国防総省に提言したのだ。日米両政府は今のところ、「辺野古に移設する現行案を推進する」との姿勢を崩していない。両政府ははたして現行案を見直し、嘉手納統合案の検討を始めるのか。この問題を15年以上観察し続けてきたシーラ・スミス博士に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)
――レビン軍事委員長らが提言した嘉手納統合案をどうみるか。
専門は日本の政治・外交、北東アジア安全保障、アジア太平洋の国際関係。現在、「中国、インドなど新興国パワーは米国や日本にとって挑戦か、新たな機会か」の研究プロジェクトを主査する。ボストン大学国際関係学部助教授、ハワイ東西センター研究員などを歴任。琉球大学、東京大学、慶応大学などで客員研究員として日本に長く滞在し、日本語も堪能。沖縄と戦後日本の平和について日米戦後史の視点から書いた著書“A Place Apart: Okinawa in Japan’s Postwar Peace”(講談社インターナショナル刊、2001年)は大きな反響を得た。
この15年間、普天間移設問題は日米両政府を大いに悩ませてきたが、具体的な事はまだ何も決まっていない。とくにここ数年は日本の政権交代で誕生した鳩山政権が県外移設を掲げて見直しを模索したこともあり、交渉はほとんど進展していない。
これまでは日本側が辺野古移設をどう進めるかということばかりに議論が集中し、米国側の政策見直しについてはほとんどふれられなかった。その点では、今回の提言はポジティブな動きと言える。
米国ではいま財政赤字削減が最重要課題であり、国防予算の削減につながる新提案は大きな意味がある。
国防総省はなぜ辺野古移設でなければならないのか、嘉手納統合案ではなぜダメなのかを議会にきちんと説明しなければならない。
この提案をした3人の上院議員は在日米軍基地問題に詳しく、具体的にどの部分を修正・変更すべきという建設的な提言をしている。レビン議員は国防政策を審査し、国防予算の編成に大きな影響力を持つ軍事委員会の委員長。また、上院外交委員会東アジア太平洋小委員会のウェブ委員長は海兵隊出身で、海兵隊のヘリ部隊と空軍の戦闘部隊が同居することの難しさをよく知っているはずだ。その上でこのような提言をしているのである。
――これまで嘉手納統合案は何度も検討されたが、日米双方の事情で見送られてきた。今回も嘉手納町長はすでに騒音などを理由に「断固反対」を表明しているが。