ダイバーシティ推進への3条件
私は、次の「3つ」の条件を整えることが重要だと思っています。
1. ハローワークを活用する
2. 新卒一括採用をやめて通年採用にする
3. 透明性の高い人事制度をつくる
●ハローワークを活用する
日本レーザーがダイバーシティ経営につながる人事・評価システムを導入することになったきっかけは、「経営破綻による人手不足」でした。
1994年、日本レーザーの社長に就任したとき、私の方針になじめない社員が次々と辞めてしまいました。
また、日本レーザーでは、日本電子の意向で次の社長が決まっていたので、生え抜き社員はどんなに実力があっても、社長にはなれない仕組みでした。
すると、社員のモチベーションは上がりません。
こうした人事は、役員や社長を目指す優秀な社員にとっては、面白いはずがない。 「このまま残っても、社長にも取締役にもなれない」と考え、商権を持って独立していきます。
私が社長になったとき、すでにレーザー輸入業界に日本レーザー出身社長が12人いました。社員を引き連れて出て行ったケースも多かった。
人材の補充は急務でしたが、求人費用はかけられないので、ハローワークに頼るしかありません。
応募してきたのは、リストラに遭った高齢者、セクハラやマタハラ(マタニティハラスメント)で会社を辞めた女性、外国籍(外国人留学生)、海外留学・遊学で国内学歴のない帰国者などです。
彼らを採用したことで、日本レーザーは、結果的に労務構成がダイバーシティになっていったのです。
●新卒一括採用をやめて通年採用にする
日本レーザーでは、原則として、学歴別、年次別評価の前提となる「新卒一括採用」をしていません。
学歴別、年次別の賃金体系は、建て前上は男女平等でも、運用では男女で差がつくことがあります(ここ数年は、新卒者が4月に入社していますが、これは「日本レーザーで働きたい」という本人たちの熱意を汲み取った例外的な採用です)。
性別や国籍を問わず、通年採用をしていて、ホームページで常時募集しています。
名古屋支店の小澤政孝は、大手企業2社から内定をもらっていました。
ところが、長野県の伊那にある実家の父親が病に倒れ、卒業後は田舎に帰って家業を継ぐよう要請されたため、2社の内定を返上したのです。
幸い父は一命をとりとめ、息子は実家に帰らなくてもよくなりました。
しかし、一度内定を返上した小澤に二度と内定通知は届きませんでした。
内定がないまま卒業したところ、日本レーザーのホームページに通年採用があることを知り、5月に入社。今は名古屋支店で勤務しています。
一度世間の冷たい風に触れただけに、今、懸命にレーザービジネスを勉強しています。
経済産業省も厚生労働省も、ダイバーシティ経営を推奨していますが、私は「新卒一括採用をやめない限り、ダイバーシティ経営はできない」と考えています。
新卒一括採用をしなければ、多様な人材を中途採用するしかありません。
私はよく、「日本レーザーの業績がいいのは、最先端の商品を扱っているからですか?」と聞かれますが、それは違います。
新卒一括採用をしていないからです。
多様な人材が能力に応じて働き、業績や貢献度によって評価される仕組みをつくったからこそ、ダイバーシティが成立したのです。
ダイバーシティは、日本レーザーの「根本的な姿勢」であって、社会福祉のためではありません。
「人を大切にする経営」を追求した結果が、ダイバーシティなのです。