「HONZで紹介する本って、どんな基準で選んでいるんですか?」そう聞かれることは結構多いのだが、いつも歯切れの悪い回答になってしまう。
むろん小説はのぞくとか、いかにもなビジネス書は紹介しないとか、ジャンルとしての縛りは色々あるのだが、それだけが重要なわけではない。要は、難解なサイエンス本や分厚い歴史本ばかりをスラスラ読みこなす小難しい集団、そんな風に思われることは絶対に避けたいのだ。
川上和人
新潮社
224ページ
1400円(税別)
しかし今なら一冊の本を差し出しながら、「こんな本だよ」と自信を持って伝えることが出来るだろう。それが本書『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』だ。
無駄に面白い――これ以上の贅沢が考えられるだろうか? 単に鳥類学の普及が目的というだけであれば、ここまで面白くする必要はなかったはずだ。著者の川上和人氏は、森林総合研究所で研究に勤しむ鳥類学者。以前『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』をHONZでもしつこいくらいに紹介したから、もはや説明の必要はないかもしれない。
あの時の完成度の高さから考えると、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』を上回るものが世に出ることなど想像できるわけもなかった。しかし本書は、より一層パワーアップして帰ってきた印象を受ける。何がパワーアップしているかというと、それは「役に立たない度」だ。
研究に明け暮れる日常を徒然なるままに書き起こし、ある日忽然と調査地が消えてしまったり、耳の中に蛾が入り込んでしまったり、吸血生物と格闘したりもする。そんな多種多様なエピソードが、通常なら研究上の大きな目的を達成する過程の中で、スパイスのようにまぶされるものだが、本書はこの周辺エピソードこそがメイン・ディッシュだ。余談だけを読み進めていれば、知らずのうちに鳥の知識もインプットされてくることだろう。