当然のようにお客様にひざまずいた大社長
私は、若いころからそう考えて生きてきました。
日本最大の靴小売店チェーンの専務から、「小西君も、出資しなさい」と誘われたときもそうです(連載第8回参照)。私は、それまでのお付き合いのなかで、信頼できる、いや、尊敬できる大先輩だと思ってきました。だからこそ、それまでの蓄えをすべてはたく覚悟もできたのです。
もちろん、合弁会社を設立するに際して交わす契約に関しては、対等のパートナーとして厳密に契約内容を詰めました。しかし、それですべてが保証されるわけではありません。だから、私は契約上万全を期したうえで、「それでも何かあれば、それは自分の責任だ」と腹をくくったわけです。
このときの判断は正解でした。ビジネスがうまくいったということもあったのかもしれませんが、その専務とはその後も盤石(ばんじゃく)の信頼関係が継続したからです。
そういえば、忘れられないシーンがあります。第1号店をオープンした初日のことです。それまであまりお付き合いのなかった靴小売チェーンの社長が、どうしても立ち会いたいとわざわざシンガポールまで飛んで来てくださいました。そして、お客様でごった返すお店まで足を運んでくれたのです。
大繁盛しているのですから、泰然自若(たいぜんじじゃく)とした社長もさすがに高揚(こうよう)しているようでした。私は、社長に挨拶をしてガッチリと握手を交わすと、すぐに店内を案内しました。そこで目にしたシーンがきわめて印象的だったのです。
お客様は小さなお子様でした。その子が靴ひもを結ぶのに難儀(なんぎ)していた。すると、社長は当たり前のようにひざまずいて、その子の靴ひもをニコニコしながら結んであげたのです。当たり前のように、です。日本最大の靴店チェーンの大社長ですから、スタッフに指示をすればいいのかもしれない。しかし、その大社長は自ら跪いたのです。当たり前のように。