「あなたが私を信頼する前に、私はあなたを信頼する」
“I trust you, before you trust me.”
これが、私の信条です。「あなたが私を信頼する前に、私はあなたを信頼する」。この言葉を胸に日々のビジネスに向き合っています。もちろん、この言葉を発する前には、じっくりと人物を見極めます。誠実であるか? 礼儀正しいか? ビジネスのことがわかっているか? 実力はあるか? あらゆる観点から観察します。そして、その人物の言動を総合的に見たうえで判断をするわけです。
これは、理性的な判断というよりは、むしろ動物的な勘というほうがふさわしいでしょう。私は長年いろいろな人物と付き合ってきて、痛い目にも合ってきましたから勘は研ぎ澄まされています。だから、騙されることはおろか、あとで落胆させられることも、かなり減ってきました。その意味で、歳を重ねるのはいいことだと思います。
しかし、歳とともに人間を見極める力が身につくとは言っても、そのためには条件があります。当たり前のことですが、人を信頼する経験をすることです。若いうちは見損なうかもしれません。それで、痛い目にあうかもしれない。しかし、それも経験。むしろ、その失敗経験によって、人物を見極める“嗅覚”が磨かれるのです。人を信頼しなければ、失敗は少ないでしょうが、それでは成長することができないのです。
いや、そもそも、誰かを信頼せずにビジネスをすることなどできるはずがありません。たとえば、営業活動では代金の支払いはあとになります。支払ってくれることを信頼できなければ、モノを売ることはできません。このように、あらゆるビジネスは信頼をベースに営まれているわけです。だから、人を信頼できない人が活躍できるはずがないのです。
そして、人を信じるかどうかを決めるのは、自分です。
どんなに相手を見極めたつもりでも、私たちは神様ではありませんから、当然、見誤ることもあります。あるいは、相手がいかんともしがたい状況に置かれて、私の信頼を裏切るような行為に出ざるを得ないこともあるでしょう。そのときは、しかるべき対応を取る必要があります。一切の取引を中止する必要があるかもしれない。何らかの制裁を加える必要があるかもしれない。
しかし、絶対にはずしてはならない原則があります。それは、その相手を信じたのは、あくまで自分であるという認識です。信頼を損なう行為をした相手が悪いとしても、その相手を信頼したのは自分なのです。その認識をしっかりもっておけば、たとえ裏切られたとしても、「自分の力が足りなかったのだ」と思える。相手のことを恨みがましく思っても、人生は決して好転しません。それよりも、その経験を糧に自分を鍛えてもらったと思ったほうがよほど生産的です。
だからこそ、“I trust you, before you trust me.”なのです。相手が信頼してくれたから、その見返りとして相手を信じるのではない。それは、相手に判断を委ねる生き方です。そうではなく、人を信頼するのは自分の決断なのです。そして、「この人を信頼する」と決断できる相手を見つけることが、積極的に人生を切り拓く大事なポイントだと思うのです。