「アンフェア」を許してはならない

 会場はホテルのバーラウンジでした。
 そこに、7~8人の欧米人が私を待ち受けていました。笑顔で挨拶を交わして乾杯。和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気でしたが、何か妙な空気も感じました。しばらくは、世間話をしていましたが、突然、私に声をかけたドイツ人がこんなことを口にしました。

「小西は、フェアじゃない」
 いきなりのことだったので驚いて、
「私がフェアじゃないとは、どういうことですか?」
 と尋ねると、こう言いながら私に詰め寄りました。
「普通、人間は週に5日働くものだ。お前は7日も働いている。こんなアンフェアなことはないだろう。我々と同じように週に2日休むべきだ」

 おそらく、もともと私を吊るし上げるつもりだったのでしょう。他の欧米人たちも、「そうだ、小西はフェアじゃない」と口々に私を責め始めました。それだけではありません。「どうも、日本人は油断がならない」「やっていることが姑息(こそく)だ」と非難轟轟(ひなんごうごう)です。

 私は唖然(あぜん)としながら、彼らの言葉を浴び続けていました。そして、こう思いました。「これは、明らかにアジア人に対する差別だ。しかも、徒党(ととう)を組んでたったひとりの私を責め立てている。これこそフェアではない」。相手は欧米人ですから、みんな大男でした。一瞬ひるみそうになりましたが、アンフェアな主張ややり方を許してはいけない。それでは、自分という存在がなくなってしまう。「いまは戦うべきときだ」と明確に思いました。

 そこで、こう反論しました。
「1週間に5日しか働いてはいけないというのは、あなた方の神様が決めたのか?」
 彼らは「え? 何のことだ?」と怪訝(けげん)な表情をしました。そこで、こうたたみかけました。
「1週間に7日働いてはいけないとは、誰が決めたのか? 神様が決めたのか? 神様が決めたのなら、それはどこの神様なんだ? あなたたちも7日間働けばいいじゃないか。別に俺は何の問題もないよ」
 これを聞いたドイツ人は、みるみる顔が真っ赤になっていきました。そして、血相(けっそう)を変えて怒鳴り散らしました。
「ばかやろう! お前は何を言ってるんだ。そんなことをしたら、たちまち離婚だよ」

 これには、思わず大笑いをしてしまいました。
 そして、“That's your problem!”と切り返しました。
「それはあなたの問題で、俺の問題じゃない。俺の嫁さんはそんなことぐらいで離婚なんてしないよ。あんたたちは、結婚相手を間違えているんじゃないか?」 
 そう一笑に付したのです。

 これに、彼らは逆上しました。ものすごい剣幕(けんまく)で口々に私を罵倒(ばとう)。「殴られるかもしれない」と思って身構えていましたが、幸いホテルのラウンジですから殴り合いの喧嘩にまでは発展しませんでした。