1960年代の後半に、森永製菓のテレビCMをキッカケとして「大きいことはいいことだ」というフレーズが大流行したことがあった。現代の、携帯電話をはじめとする軽薄短小とは逆を行く発想が、もて囃された時代であった。高度経済成長を象徴していたともいえるだろう。
そのようなCMが存在したことなど、若年層にはまったく想像もつかないであろうが、「大きいことはいいことだ」という発想は、半世紀近くを経た現代でも受け継がれているようだ。そう感じたのは、2011年3月期決算で、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーが、売上高で日本マクドナルドホールディングス(以下、日本マクドナルドと略す)を抜き、外食産業で首位に躍り出た、という記事を目にしたからであった。
メディアの立場からすれば、ゼンショーの業績を報道するだけでは華がないと判断したのだろう。「大きいことはいいことだ」という意識を読者に植え付ける効果までを狙ったかどうかは定かでないが、日本マクドナルドと比較することによって、読者の興味を惹きつける効果はあったようだ。
ゼンショーに首位を明け渡した日本マクドナルド
フランチャイズ化に潜む経営戦略とは
ところで、筆者が興味を持ったのは、外食産業の首位争いではない。そうした記事の後段でほぼ間違いなく記載されていた「ただし書き」のほうにあった。例えば読売新聞では「フランチャイズ店を含めた全店売上高では、日本マクドナルドは(途中略)ゼンショーを上回っている」としていたし、日本経済新聞では「マクドナルドは店舗のフランチャイズ化を進めている影響で売上高が減っている」とあった。
なるほど、「フランチャイズ」か。そういえば本連載の第9回コラム(セブンイレブン編)で、日本マクドナルドでは店舗売却益を特別利益とせずに、売上高へ計上する問題の是非を提起していた。今回は上記の「ただし書き」の新聞記事を見て、ロッテリアやモスバーガーなどライバル企業との「横」への展開ではなく、フランチャイズをキーワードにした「縦」の深度を測ってみようと思った次第である。
今回のコラムは実は、東京都内の某マクドナルド店に、ノートパソコンを持ち込んで執筆している。ダブルチーズバーガーで手を汚しては困るので、セブンイレブンで手に入れた割り箸でバーガーをつつく。左隣の席には、帰宅部所属と思しきJKが3名。彼女たちから「変なオヤジ光線」を浴びているが気にしない。
店内で1時間ほど粘ってあれこれ調べているうちに、太平洋の向こう側にあるアメリカ本社の経営戦略の一端も見えてきた。有価証券報告書やニュース-リリースなどでは決して開示されない、意外な経営戦略を以下で炙り出してご覧に入れよう。「ただし」あくまで私見であるが──。
日本マクドナルドの3つの店舗運営方式
最初に、ファーストフードやコンビニエンス-ストアなどで採用されているフランチャイズ制度の概要を〔図表 1〕で整理しておく。他にも様々な店舗運営方式や名称があるだろう。ここでは日本マクドナルドのものを採用した。
日本マクドナルドがその連結損益計算書において計上している売上高は、〔図表 1〕(1)に係るものだけである。同(2)を売上高に計上しないのは、国際会計基準IFRSの影響によるようだ。
本連載の第20回(日本たばこ編)や第31回(総合商社編)で紹介したように、国際会計基準IFRSでは原則として、商品を販売したり役務を提供したりする過程で、売り手から買い手にリスクと経済的便益が移転したかどうかによって、売上高の認識を行なわせようとしている。