震災による津波で被災した仙台空港。再開はしたが、本格復旧していないため、暫定運用が続く
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 金融業界が虎視眈々(たんたん)と狙ってきた巨大市場が、国内に立ち上がろうとしている。

 政局が混乱を極めた5月下旬、ひっそりとある法案が可決された。成立したのは、改正PFI法。PFIとはプライベート・ファイナンス・イニシアティブの略で、民間の資金やノウハウで社会インフラなどを整備、管理し、財政支出の圧縮を狙う仕組みである。

 法改正の目玉は、国や自治体が公共施設の所有権を持ったまま、その運営権を民間に売却し、経営を委託できる「コンセッション方式」を導入した点だ。

 これにより法的制約から従来は難しかった、空港や上下水道など、利用料金の発生するインフラへの活用が可能となった。つまり、これまで官に独占されてきた市場が民間に開放されることを意味する。

 その第1弾として名前が挙がっているのが、津波によって甚大な被害を受けた仙台空港だ。仙台空港の再建については、ターミナルビルの復旧は国の責任で行うと見られるが、その後の経営再建について、民間の資本やノウハウを活用する案が浮上しているのだ。

 そこに目をつけたのが金融業界。今後、地方財政の悪化は必至とあって、水面下でPFI案件の準備を進めてきた。一部金融機関はすでに被災した自治体などに接触を図っているという。

 日本政策投資銀行は仙台に東北復興支援室を新設。その1人としてPFI事業の担当者を派遣し、準備を進めてきた。

 また、みずほコーポレート銀行は、PFI事業の窓口である内閣府のPFI推進室に行員を出向させ、関係強化を図るとともに、ノウハウを蓄積していると見られる。

 一方、海外でノウハウを積もうとするメガバンクもある。三井住友銀行は3月にインドで、現地の金融大手などと組んでインフラファンドを設立している。メガバンク関係者は「この投資は海外ビジネスの強化という側面に加え、日本国内におけるPFI事業の拡大も視野に入れている」と指摘する。

 海外におけるインフラファンドの経験では商社が一枚上手だ。
三菱商事の産業金融部門は、クレディ・スイスが取り仕切り、英国の空港などの経営に携わっているインフラファンドに出資。社員を派遣してノウハウを吸収しており、国内のPFIでも応用できる水準にあるとされる。

 これまで日本国内のPFIといえば、ゼネコンによる公共施設の建設が中心だったが、復興プロジェクトが本格化するなか、仙台空港のほか、上下水道や学校などの運営でもPFI活用が期待される。

 カギは、被災地の行政を巻き込めるかということ。実現すれば、震災をきっかけにして、金融業界が新たなかたちのローンやエクイティファイナンスを担う可能性もありそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久、山口圭介)

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