顧客同士が交わす無言のメッセージを読む

 それは、より深い「深層対話の視点」である。

 すなわち、この場面では、顧客がその表情や仕草、動作から伝えてくる「言葉以外のメッセージ」を感じ取るだけでなく、顧客同士(この場面は、D部長とE課長)の目立たないやりとりの中で、その顧客同士の間で交わされたメッセージや、顧客同士の関係を感じ取るという「視点」を教えているのである。

 この場面では、「顧客同士の間で交わされたメッセージ」は、E課長がD部長にそっと渡したメモだが、ときには、さらに細やかなレベルで受け取るメッセージもある。

 例えば、次のような場面だ。

 ある社内会議の後、廊下を歩きながら、F課長と若手のG君が言葉を交わしている。

F課長 「いまの全社プロジェクトの打合せ、君は、何を感じた?」

G君  「この全社プロジェクト、各部門から異論が相次ぎ、議論が紛糾した感がありましたが、3時間の会議、最終的には、企画部門のH課長の発言で、まとまる方向にいきましたね…。一時は、どうなるかと思いましたよ…。このプロジェクトを統括する開発部のI課長、ご苦労された会議でしたね」

F課長 「君からは、そう見えるか…。自分の目からは、予定通りに進んだ会議に見えたがな…」

G君  「なぜですか?」

F課長 「たしかに議論は紛糾したように見えるが、この全社プロジェクト、一度は、各部門の言い分を存分に言ってもらう場面だからな…。その意味では、各部門、言いたいことは十分に言ったのではないかな…。そして、会議の終わり頃に、H課長が、議論をまとめる方向で、調停的な発言をしたので、各部門の責任者は、矛(ほこ)を収めた形になった。これは、I課長が予定した通りの展開だろう…」

G君  「どうして、そう思われるのですか?」

F課長 「いや、実は、会議が終わった瞬間に、ピンと来たんだよ。出席者が机の上の書類を片付けて、次々と部屋を出ていくとき、一瞬だが、I課長とH課長が視線を交わしたんだな。あの瞬間の2人の表情を見たとき、ああ、事前に、議論が紛糾したら、議論の調停に入ってもらうように、I課長がH課長に根回しをしておいたんだな、と思った…。だから、最後は、無言の視線で、エールの交換だ。いつもながら、I課長は見事だな…」

 この場面など、単に、2人の参加者が視線を交わした一瞬で、大切なメッセージを感じ取っている。F課長は、このレベルでの細やかなメッセージを感じ取る「深層対話の視点」を、印象的な表現でG君に教えている。

 また、「顧客同士の関係」を感じ取る「視点」という意味では、次のような場面が参考になるだろう。

 A課長と若手のB君、営業の帰り道の会話。

A課長 「先ほどの商談、先方から出てこられたのは、C部長とD課長だったが、今回のプロジェクトの発注を決めるのは、実質的にD課長だろうな…」

B君  「どうして、そう思われるんですか?」

A課長 「会議の最中、C部長がD課長に、資料のコピーを頼んだな…。あのとき、『君、すまんが、コピーを頼む…』と言って頼んだが、あの頼み方を見ていると、C部長、D課長には、かなり気を使っているな…。雰囲気的にも辣腕という感じのD課長だが、あの部署は、実質的にD課長が仕切っている感じだな…」

B君  「たしかに、C部長、人柄が良さそうな方でしたね…」

A課長 「だから、次回の提案に向けては、今日、D課長から出たコメントを重視して企画を修正する必要があるな…」

 この場面、A課長はB君に対して、商談や会議の中での相手の何気ない振る舞いから、その部長と課長の関係を感じ取るという「深層対話の視点」を教えている。

 実は、商談や会議の最中の、こうした何気ない瞬間に、その部署における人間関係や力関係などが「言葉以外のメッセージ」として伝わってくることは、しばしばある。ときには、お茶を出すスタッフの振る舞いから、その職場の文化や人間関係が伝わってくることさえある。

 もう1つ、さらに細やかな「言葉以外のメッセージ」を感じ取る場面を紹介しておこう。