「目が見えなくても大丈夫」
引きこもらずどんどん外に出よう

 井上さんの出張講座は、依頼者の最寄り駅のカフェなどで行われる。

「僕も1人で行きますし、向こうも障害者が1人で来る場合が多い。お互い目が見えませんから、店の近くまで来たら携帯電話で連絡を取り、片方が『今から叫びます』と予告してから『オーイ!』と叫ぶ。その声を聞き、もう一方が『ああ、そっちか』と歩み寄る形で待ち合わせをしたりします」

 視覚障害者や介助者の考え方も人それぞれで、「危ないからなるべく家を出るな」という意見もある。だが、井上さんの考えは逆だ。「引きこもらずに、どんどん表に出ようよ」と提唱している。

「目が見えなくても、『Mind・Digital・Supporter』この3つを使えば一般社会で生きていける。MDSiサポートという屋号は、そうした思いにiPhone・iPadのiを加えたものです。口下手だからと言って機械だけに頼りすぎてもダメだし、支援者をたくさん作れても機械を使えないと苦労は絶えない。機械も人付き合いも苦手なら、心を鍛えるしかない。大事なのは、その三者のバランスをうまく取ることで、僕はその手助けをしたいと考えています」

 そんな井上さんが将来の夢を語る。

「目が見えなくても得意なことで食べていけるんだという成功例を見せて、目が不自由な人たちを勇気づけたいですね。僕が入院して一番苦しかったとき、『見えなくても大丈夫だよ』と言ってくれる人は病院内には誰もいなかった。心の弱い患者さんだと、ベッドの上で心が壊れてしまうと聞きます。だから僕はプライベートレッスンや講演会と併行しながら、いろんな病院に非常勤でもいいから顔を出し、『iPhoneで遊んでみない?こんなに目の代わりになるんだよ。同じ症状の仲間もたくさんいるから紹介するよ』と声をかけ、絶望の淵にいる患者さんを励ます仕事もやりたいです」

 そして、最後にこう付け加えた。

「もし30年後、医学が進歩して、『手術をすれば視力が1.0に戻るよ』と言われたとしても、『やる!やる!』と二つ返事をせず、『見えなくても十分に楽しく暮らしていけるからなぁ……』と迷えるぐらいに成長できたらいいなと思います」