山陽マルナカの後、2010年9月に玩具量販店大手の日本トイザらス、11月に家電量販店大手のエディオンが公取委の立ち入り検査を受けた

 優越的地位の乱用(以下、「優越」)で課徴金2億2216万円──。この額の大きさが小売り業関係者を驚かせている。

 公正取引委員会は6月22日、岡山県を地盤とする食品スーパーの山陽マルナカ(岡山市)に対して、納入業者に従業員を無償で派遣させたり、不当な返品や支払代金の減額を行ったりしたなどとして独占禁止法違反で課徴金の納付と排除措置を命じた。

「優越」といえば、ヤマダ電機が家電メーカーに従業員を無償で派遣させていた問題、セブン-イレブン・ジャパンが加盟店の値引き販売を制限していた問題などが記憶に新しい。ヤマダ電機とセブン・イレブンは2008年と09年にそれぞれ排除措置命令を受けているが、課徴金は支払っていない。それもそのはずで、「優越」が課徴金納付の対象となったのは、改正独禁法が施行された10年1月以降のこと。山陽マルナカが納付命令第1号なのだ。

「優越」における課徴金の計算方法は、違反行為をした日からその行為がなくなるまでの期間における違反行為の相手方との取引額の1%と決められている。公取委によれば、山陽マルナカの違反行為は遅くとも07年1月から行われていたが、改正独禁法施行前までさかのぼって課徴金を適用できないため、10年1月から公取委が立ち入り検査に入った同年5月18日までにあった165社に対する違反行為が対象となり、2億円超という課徴金の額がはじき出された。

 独禁法に詳しいきっかわ法律事務所の村田恭介弁護士は、「仮に法律で定める最長3年まで遡及適用されていれば、課徴金の額は18億円を超えていた可能性もある。薄利多売のスーパーにとっては経営に深刻な打撃を与えるほどの額だ」と指摘する。山陽マルナカの売上高は1200億円超。株式非公開のため利益額は不明だが、食品スーパーの平均的な純利益率は1~2%程度。損金計上できない2億円超の課徴金は大きな負担となるはずだ。

 じつはこのところ「優越」にかかわる事案が急増している。違反行為に対する措置としては、注意、警告、法的措置の3段階があるが、08年度に13件だった措置件数が、09年度は26件、10年度は56件と倍々ゲームだ。その背景について公取委は、「厳しい経済状況において中小事業者が取引先大企業から不当なしわ寄せを受けないようにするため」と説明しているが、公取委の動向に詳しい法曹関係者のあいだでは異なる見方もある。「優越」は公取委の中で審査局が担当するが、審査局がもともとメインで扱っていた事案は入札談合。だが、07年に施行された改正官製談合防止法で公務員も刑事罰の対象となり、談合は激減した。暇になった審査局が、「優越」を次のターゲットに定めたというのだ。

「優越」はもちろん、小売り業だけでなく、多くの下請けを抱えるメーカーなども摘発対象となる。俄然やる気の審査局を敵に回さないためにも、大手企業は再度法令遵守の徹底を図ったほうがよさそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 田原 寛)

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