小さな政府の話は、特に政治や経済等社会的な問題については、情緒的な国語ではなく、誰にでも検証可能な算数で話をする癖をつけなければ、有意義な議論はできないという1つの好例であろう。実態的な根拠のないスケープゴート叩きほど無意味なものはないと考える。

「景気が良くなるまで増税は控えよ」
という主張は正しいか

 最後に横綱級の反論が押し寄せてくる。一体改革成案にも「政府は日本銀行と一体となって、デフレ脱却と経済活性化に向けた取組みを行い、これを通じて経済状況を好転させることを条件として」税制抜本改革を実施する、と述べられているように、景気が良くなるまで増税を控えよという主張である。この主張は正しいだろうか。

 まず、この主張に従えば、景気が良くなるまで増税は実施できなくなるが、仮に、この先景気が良くならなければ一体どうするのだろうか。

 次に筆者は63才になるが、旧友が集まれば、ほぼ必ず老後をいかに過ごすかという話になる。その際の最大公約数は「いつまで生きるかわからないし、政府も当てにならないから貯金するしかない」というものだ。

 つまり、将来に不安があるから消費を控えるのである。そして、わが国のGDPの6割は消費が占めているのである。政府が「年金・医療・介護はこの先心配なく。その財源として消費税を上げますから」と断言すれば、貯蓄の大半を保有している高齢者は消費に向かうのではないだろうか。市民を消費に向かわせる最大の原動力は、財源の裏付けのあるサスティナブルな社会保障制度の再構築であると考える。増税が不景気を招くのではなく、将来の先行きに対する不安が不景気を招くのだ。

 仮に消費税率を10%上げるとした場合、来年から2%ずつ5年間にわたって消費税率を上げ続ければ、駆け込み需要によって、かえって景気は早く上向くのではないか。しかも来年は、復興需要に伴う景気の上昇が見込まれているので、消費税率の引き上げを併せて実施すれば、上昇のスピードに弾みがつくことも十分考えられる。「若い世代」の次期首相が、2012年からの消費税引き上げを断行すれば歴史に名が刻まれるだろう。

 なお、97年不況は主として消費税の引き上げがもたらしたものだという話も繰り返し語られているが、経済学者による実証的な研究でそれが確実に裏付けられたという話は寡聞にして知らない。さすがに、景気を刺激するために国債を増発すべきだとか、景気が良くなれば増税しなくても何とかやっていけるという暴論は影を潜めたが(景気のピーク1990年度でも税収は60兆円しかなく、しかも60兆円を超えたのはこの年1回限りである)、景気が良くなるまでは増税は控えるべきだという一般受けのする俗説を乗り越えて前進を続けていくためには、さらに議論を重ねる必要があるだろう。

 増税が不人気な政策であることは百も承知だが、人口が少なくなる私たちの子どもたちの世代に、これ以上の負担を先送りしてもいいと考える大人はほとんどいないはずだ、と筆者は信じたい。紙数が尽きたので、社会保障改革については稿を改めて論じることにする。

(文中意見に係る部分は全て筆者の個人的見解である。)