野党が提出した菅内閣不信任決議案は、民主党の小沢グループや鳩山前首相が賛意を表明したこともあって、可決の可能性が囁かれていた。しかし、6月2日、不信任決議案採決の直前に開かれた民主党の代議士会で、菅首相が「大震災に取り組むことに一定のめどがついた段階で、若い世代の皆さんに責任を引き継いでもらいたい」と退陣表明を行い、これを受けて鳩山前首相が「復興基本法を成立させ、第2次補正予算案の早期の編成にめどをつけていただきたい。その暁にご自身の身をお捨て願いたいと申し上げた。菅首相と鳩山で今のことで合意した」と述べたことにより、民主党内の造反の機運が一気に窄み、不信任決議案は大差で否決された。

 その後、菅首相がいったん表明した辞任意向を打ち消すような発言を続け、これに対して鳩山前首相が「ペテン師まがい」と激しく批判、与野党からもこれに呼応する意見が噴出し、政策空転の懸念が強まっている。 

今回の内閣不信決議案には
野党にも、与党の造反組にも大義がない

 東日本大震災への対応が急がれている中で、自民党や公明党等が内閣不信任決議案を提出したことには大義がないと考える。なぜなら、不信任決議案は、そもそも後継の首班(候補)を選定した上で内閣総辞職か解散かを迫るものであると考えるが、野党は後継を立てる素振りも見せず、また、現下のわが国が、総選挙を行えるような状況にはないことは火を見るよりも明らかであるからである。そして、そのような不信任決議案に同調を(一時的ではあっても)喧伝した政権与党内の造反グループにはもっと大義がないと思う。

 もちろん、このような緊急事態にあってなお不信任決議案を受けざるを得なかった菅内閣にも応分以上の責任があることは申すまでもない。わが国の政治の劣化は目を覆うばかりの惨状にある、と言ってもいいかも知れない。