社会企業に転身した
中国のビジネスエリートが放った不可解なひと言

 今回の中国での取材で、もうひとり、衝撃を受けた人物がいる。

 中国で貧困の撲滅を目的に、マイクロファイナンスを繰り広げる先駆的なNGO、「北京冨平学校」。ここで経営を担う沈東曙だ(冨平学校と沈の物語の詳細は、書籍で紹介している)。「アジア最大のマイクロファイナンス機関」を目指すと公言し、貧困の解決という恐ろしく困難な課題に取り組んでいる男だ。

 だがこれほどの壮大な絵を描く「天才」は、「ボスを探していたんだ」と僕に言った。シティバンクの中国法人の立ち上げに参画し、中国経済の成長を実現に導いた若手エリートの一人である彼が「ボスを探していた」というのは、いったいどういうことなのか。

 彼の何気ない言葉を僕は数か月間考え続けることになる。僕よりもはるかに能力の高い起業家が「ボスを探した」というのにもかかわらず、自らの力のみを頼みに前に進む自分が「井の中の蛙」のような存在に思えてしまったのだ。「起業家」という枠にとらわれ、変化を起こすのが目的なのか、自らの力を発揮したいという顕示欲が目的なのか、気がつくとわからなくなっていた。

 くすぶる思いを消化しきれないまま、次の国、フィリピンに向かった。そこで僕が見たのは、厳しい現実に直面しながらも、明るく楽しく、クリエイティブに課題に挑戦する「貧困層」だった。

 

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
経営コンサルタント/日中市民社会ネットワーク・フェロー。
学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。
2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という本書の着想を手に入れた。
twitter : @tetsuo_kato
URL : http://www.nomadlabs.jp/ (講演などのお問い合わせはこちらから)

 

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『辺境から世界を変える――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』

急成長する中国で見た社会企業の姿<br />――「世界最大の市場」で進み行く巨大な変化を追う

「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。

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