電力消費がピークとなる夏本番を迎えた。
7月以降、大手ゼネコンでは、既存のビルや工場などで節電に役立つソフトウエアやノウハウを提供する節電ビジネスを開始する動きが出てきた。
東日本大震災を発端とした福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、電力会社の供給力が低下。電力不足の長期化が懸念されている。政府は電気事業法に基づく強制措置で、東日本地域の大企業などの大口需要家(契約電力500キロワット以上)に対し、昨年比15%の節電目標を課している。これら企業の節電対策への需要が高まっていることに対応するものだ。
大成建設や大林組、戸田建設は、7月から自社開発した節電システムの提供を始めた。ビルや工場などの建物の電力の使用状況をパソコン画面上でグラフにするなどにして「見える化」し、節電に役立てる。ガスなどの他のエネルギーの使用状況も監視できる。
大成建設のシステムは、いったん節電の目標値を設置すると、事前に決めた優先順位によって、室内の消灯や空調機、機械類などの停止を行い、自動制御まで行えるのが特徴だ。
一方、大林組は、個別の事業所や工場だけでなく、会社全体の電力使用状況を一元化して監視できるのが大きなセールスポイント。エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部を改正する法律(改正省エネ法)で義務づけられている提出書類も自動作成できる。
大林組は、希望する企業に、このシステムを無料で提供し、初年度1000件の導入を見込む。海外事業所も含めて、遠隔操作で電力の使用状況を自動制御できる有償のシステムもある。
清水建設は、建物内の全パソコンの使用状況を個別に監視できるシステムを提供する。事前の設定によって、無操作のまま放置しているパソコンのモニター画面や電源などをオフにすることができる。
同社によると、現在、パソコンを中心とする消費電力がオフィスビル全体の電力使用量の15%を占めるという。システムの運用法にもよるが、パソコンの消費電力量を最大30%、ビル全体で5%程度の節電効果が期待できる。価格はパソコン3000台で1000万円程度。
このほか、鹿島や竹中工務店なども7月以降、自社ビルの改修工事で検証した節電技術をベースに、節電コンサルタントビジネスを開始している。
これら節電ビジネスの収入の多くは、1件あたり数十万円~数千万円程度にすぎない。大手ゼネコンにとっては微々たるものだ。ましてや、大林組のシステムは、無料が基本である。
それでも、ここにきて一挙にゼネコン各社が節電ビジネスを始めた理由は何か。
その最終的な狙いは二つ。一つは、節電ビジネスをきっかけに、将来の改修工事の受注が期待できること、二つめは、ビル管理など、儲けは少なくても手堅いストック事業の積み重ねに結びつく、という点だ。
つまり、節電ビジネスは、顧客を囲い込み、結びつきを強めるための“営業ツール”であるわけだ。
最近はある程度の復興需要こそ、見込まれてはいるが、「阪神・淡路大震災と同様に、仕事はあっても利益は少ない」(大手ゼネコン役員)と予想されている。長期的な公共工事の減少傾向は変わらない。国内の民間工事の受注も、人口減少や工場の海外移転が進むなかで、不透明感が強い。
ゼネコン各社の節電ビジネスは、厳しい経営環境で活路を求めて努力する“暗中模索”の一つといえよう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)