考えてみると、発注者はITに関して「素人」である場合が多いはずです。
インターフェース仕様や移行方式、検証環境などについて発注者が検討するというのは、家の建築に当てはめれば、施主が耐震のための柱の数を検討するようなものです。「なるほど。そうですか」と自力で検討できる人間のほうが少数派でしょう。
この判決は、そういう意味で、発注者にとって非常に厳しい内容だと言えなくもありません。
価格(本体):1980円+税
発行年月:2017年6月
判型/造本:A5並製、352ページ ISBN:978-4478065792
しかし、あえて声を大にして言わなければなりません。
ITシステムの発注者とは、そうした責任を負うものなのです。
システムの導入は、家の建築とは違います。施主が漠然としたイメージを伝えたら、あとは建築家の持ってくる完成予想図や概略の図面にコメントするだけOK、という類のプロジェクトではありません。
ベンダーが「ご判断をお願いします」と持ってきた資料に、もし、よくわからない言葉や内容があった時は、それについて勉強して、ある程度は技術面も考えた上で回答しなければなりません。自社の業務知識を正確に把握していることと、最低限のIT知識は、どうしても必要になるのが現状です。
もし、あなたがIT導入の担当者になったら、自分の本職はいったん忘れて、ひとまずITにどっぷり浸かる覚悟を持つことが、高いプロジェクトの失敗率を下げることに繋がるでしょう。
『システムを「外注」するときに読む本』の第3章では、ITシステムに関して知識もなければ興味も持てないシステム担当者が、プロジェクト中に何に苦しむことになり、そこからどうやって適切な知識を得て、どのようにモチベーションをあげるべきかが書かれています。
ご自分の会社やプロジェクトにあてはめていただきながら、ぜひ、ご一読くだされば幸いです。
経済産業省CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。立教大学経済学部経済学科卒。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員。大学卒業後、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社にて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行なう一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。
これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より経済産業省の政府CIO補佐官に抜擢され、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる。著書に『システムを「外注」するときに読む本』(ダイヤモンド社)、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか!』『モメないプロジェクト管理77の鉄則』(ともに日本実業出版社)、『プロジェクトの失敗はだれのせい?』『成功するシステム開発は裁判に学べ!』(ともに技術評論社)などがある。