ロッテホールディングスの株主総会で創業者が取締役を退任し、自身の取締役復帰を求めた長男も敗れたが、父と兄を排した次男も薄氷の上に立つ。骨肉の争いに新疑惑が浮上した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)
たった一人参加した株主の前に、経営陣8人と監査役1人、その後ろに弁護士5人と執行役員3人がズラリと居並ぶ。6月24日に開催されたロッテホールディングス(HD)の定時株主総会は、一般的な上場企業のそれとは趣が異なり、漂う緊張感もただならぬものだった。
経営陣の席に創業者の次男である重光昭夫副会長(韓国ロッテグループ会長)、株主席に長男であり、ロッテHDの筆頭株主である光潤社の代表の宏之元副会長が座る。経営権を争う“兄弟げんか”の縮図がそこにはあった。
この日、創業者である武雄名誉会長は70年近く務めた取締役を退任した。宏之氏は武雄氏と自身の取締役選任を株主提案したが否決され、経営権争いでは現在ロッテグループを支配する昭夫氏に軍配が上がった。宏之氏は過去の株総で既に2度、自らの経営権復活を図る株主提案を行っているが、三度目の正直もならなかった。
疑惑の後見申請
株総に先立つ6月初め、別の舞台でも昭夫氏は勝利をつかんでいた。韓国で武雄氏の「限定後見」を開始することが決まったのである。韓国の制度において、「成年後見」は本人に事務処理能力が欠如している場合に指定されるのに対し、限定後見は比較的能力が残っている場合に指定される。それでも、不動産契約や預金の管理など一定の範囲で後見人の同意が必要になるなど、制約は多い。
事の発端は2015年末。武雄氏の実妹であるシン・ジョンスク氏が、武雄氏には健康面で問題があるとし、成年後見人指定の申請を行った。武雄氏から後継者指名を受けた宏之氏にすれば、後見開始が認められると、指名時に正常な判断力があったのか疑問符が付き、後継者となる根拠が揺らぐ。つまり昭夫氏には有利になる。1年以上にわたる攻防の末、韓国の最高裁判所は今回の審判を下した。
限定後見人を付けることを武雄氏が望んだのであれば、なんら問題はなかろう。しかし、武雄氏の望みではない。その上、実は申請の経緯にも疑惑が浮上している。
韓国では昭夫氏と武雄氏、宏之氏らが、背任・横領の罪で刑事裁判を受けている。その一連の裁判の資料を入手した関係者たちは驚愕した。そこには、後見申請は経営権を握るために昭夫氏側が画策したものであることを裏付ける内容が含まれていたからだ。