「城山三郎経済小説」大賞受賞の喜びもつかの間。『銭の弾もて秀吉を撃て』の出版に向けて、作者と編集者の二人三脚の作業が始まります。特に今回は、ダイヤモンド社としても不慣れな歴史小説。若き編集者・廣畑君の試行錯誤と粘り強い仕事ぶりが続きます。中でも精力を注いだという校正作業と装丁を中心に聞きました。
元号との整合性を調べるのがこんなに大変だとは。
歴史書を編集している人に笑われそうですが(苦笑)
――ダイヤモンド社では珍しい歴史小説だけど、編集作業はいつもと違った?
廣畑 そうですね、特に校正にはいつも以上に注力しました。
いつもビジネス書で行うような校正に加えて、時代考証、すなわち本当にその時代にその出来事があったのかなど、一つひとつ調べる必要があります。もちろん、作者の指方さんも調べつくして書かれておられますが、もし勘違いやモレがあった場合、こちらでも指摘できなければ、と思いまして。歴史小説の経験があまりない出版社だからこそ、プロフェッショナルの力をお借りして、万全の態勢で臨もうと思いました。
そこで、歴史小説を多数こなされている校正者の方をお二人紹介していただき、校正をお願いしました。
印象に残っているのは元号です。物語の年表をつくり、実際の史実と照らし合わせて矛盾がないか、調べていきました。昔の人は官職はもちろん、名前も年とともに変化するので、細かく追っていく作業にとても時間がかかりました。たとえば物語冒頭の1591年6月、このとき秀吉は関白なのか太閤なのか、といった感じです。こんなこと、当たり前と言えばそのとおりなので、歴史書を編集している編集者の方にお話しすると笑われてしまいそうですけど(苦笑)。
――校正者の活躍もすごいですが、この仕事、編集者もある程度歴史に詳しくないと難しいのでは?
廣畑 そうかもしれません。もちろん歴史の専門的な勉強をしてきたわけではありませんが、歴史関連の書物に触れるのは好きな方だと思います。だからこそこの作品に惚れましたし、細かい作業も苦にはならなかったです。
――この本を編集するために、特別に何か読んだ本などは?
廣畑 それはないです。ただこれまで読んできた本で得た知識が役に立ったことはあったと思います。ちょうど編集作業をしていた7月は、大河ドラマ『江』でも同じ朝鮮出兵前後が描かれていたので、観てみたりしました。
むしろ、この本の内容を精査していく作業が僕にとってとても大きな勉強になりました。いままで知らなかったことを随分知るようになりましたから。辞書や図鑑とにらめっこしながら何度夜が明けたか……。
――やはり時間はかかったんだね。
廣畑 そうですね、追い込みの時期は会社に何泊かしました。ありがたかったのは、校正者のお二人の仕事が本当に丁寧だったこと。校正者さんも徹夜で調べてくださっていて、これはこちらもしっかり調べなければ、と気を引き締めました。
――作者にはどうお伝えした?
廣畑 指方さんには、校正者と僕の赤字が入ったゲラを持って、最後の最後に九州の小倉まで伺って見ていただきました。あぶり出された疑問点を、一つひとつ指方さんに確認していただき、ときには新しいアイデアも出しあいながら、その場でどんどん解決していきました。保育園の事務所をお借りして、4時間ほどぶっ通しでお付き合いいただきました。
疑問点のなかには、指方さんに意図があってそうなっている箇所もあって、改めて指方さんの事前調査のすごさを感じました。