こうしたビジネスを展開するには、資金がいる。しかし、北朝鮮には資金を融資する銀行が存在しない。では、彼らはどこから資金を調達しているのか。

 実は「脱北者」から調達しているのである。

 韓国に定着する脱北者のほとんどが、北朝鮮に残した家族に送金、つまり「仕送り」をしている。その額は、少なくとも年間1000万ドル(10億2000万円)という調査結果がある。これに加えて、中国に潜伏しながら北朝鮮に送金している脱北者も含めると、相当な額が北朝鮮に流れている。

 北朝鮮経済がいくら成長してきているとはいえ、人々が通常の生活を営むために10億円は多過ぎる。この10億円のかなりの額が、ビジネスをするための資金となっていると見て間違いないだろう。

「デノミ」失敗、統制に戻せず
市場からミサイル開発資金得る

 こうした草の根資本主義は、金正日体制のころから急拡大したが、金正日委員長は、当時、苦々しい思いで見ていたに違いない。

 国民を統制するためには、経済を統制しなければならない。しかし、統制しようにも国家にその余力はなく、その間にも庶民たちのチャンマダンはどんどん増殖した。

 北朝鮮当局は2009年11月、電撃的に「デノミネーション」を断行する。北朝鮮ウォンの通貨単位を変えることによって、市中にたまった資金を表に出し、再度、市場を統制しコントロールする狙いがあったといわれている。

 ところが、庶民たちがこれに猛反発する。

 もともと、通貨では、人民元や米ドルが信用ある通貨として使われていたのだが、デノミを機に、北朝鮮ウォンの信用はガタ落ちし、またデノミの混乱で経済は停滞した。 庶民の怒りを抑えるため、デノミ実施の責任者だった朴南基(パク・ナムギ)氏は翌年3月に処刑された。

 この事件は、金王朝の独裁体制でさえも、草の根資本主義にはもはや簡単には手出しできないことを象徴する事件といえる。

 朴南基氏の処刑は、当時は一切、明らかにされなかったが、2013年の張成沢(チャン・ソンテク)処刑事件の際に、北朝鮮が公式に明らかにした。

 つまり、デノミネーションの混乱を張成沢と朴南基に押しつけて「失敗」だったと認めたのだ。北朝鮮の草の根資本主義に対する「敗北宣言」と言っても過言ではない。

 この敗北を教訓としたのか、金正恩体制は、草の根資本主義を統制するのではなく、容認しながら囲い込もうとする方針に転換したようだ。