有病率が今や110人に1人と言われる自閉症。その治療法の開発に生涯を捧げ、重要な成果を上げたイヴァ・ロヴァスをご存知だろうか? その集大成となる著書『自閉症児の教育マニュアル』を邦訳した中野良顯・東京成徳大学大学院特任教授が、ロヴァスの仕事と人間を語る。

自閉症の有病率は110人に1人 

 恩師イヴァ・ロヴァスがUCLAを退職するに当たり、自閉症児とその家族のために、精魂込めて執筆された重要な著作を、ようやく翻訳し上梓することができた。

 先生は1961年から2003年まで40余年、UCLAを拠点として自閉症の治療研究に取り組まれ、生涯を捧げられた。自閉症とは、生後3歳までの間に、言葉や身振りなどのコミュニケーション能力を獲得せず、人に関心を示し交流しようとせず、手を振り旋回するなど反復的で常同的な行動と狭い興味関心を顕著に示す広汎性発達障害である。

 ことばがなく、社会的に孤立し、自己刺激に没頭する。そういう自閉症児の治療研究と臨床は困難を極める。その難事業に生涯ぶれることなく取り組んだ科学者・臨床家は、きわめて稀である。しかも以前には少なかった自閉症が、今や110人に1人の割合で発症するポピュラーな児童精神障害となった。その救済は現代世界が直面する最重要課題の一つである。