左利きの最大の苦痛は文字を書くこと。横線は押して書くため筆先が引っかかりやすく、「はね」「はらい」などは部分的な反転が起こることもある。だからといって右手使いの強要は、精神的負担が増すため注意したい。本稿は、大路直哉『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』(PHP新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「せめて箸とペンだけは右利きに」
高学歴な親ほど子の左利きを矯正
「躾」ではなく「教育」の問題として、いまだ取り上げられる左利き。
いかに「左利きは矯正しなくても良い」とする風潮が主流であるとはいえ、21世紀に入ってもなお、左利きの子どもに箸と筆記具だけは右手で持たせたいと考える大人は少なくありません。
その傾向は、特に筆記具にかんして高学歴層の教育熱心な大人や、自身が左利きで矯正を受けた親に見られがちです。
21字から33字で表記できる欧米語のアルファベットとは異なり、日本語の場合はひらがなとカタカナ、そして小学校の6年間だけでも1026字もの漢字を覚えなければなりません。
またデジタル系デバイスの開発がいくら進んだといっても、文字の習得において「手で書くこと」は高度な言語能力の発達に影響を与えることが発見されており、今後も文字の習得において「筆記具」は教育の現場で必要不可欠であるといえます。
以上を踏まえたうえで、考えられる左手による書字のデメリットを挙げてみます。
(1)「の」を書くときのような時計まわりの運筆や、「三」を書くときのような左から右へと横線を引く動作が連続する運筆では、線を押しながら書くため筆先が引っかかりやすい。
(2)書き順が右手書字を前提としているだけでなく、「はね」「はらい」「とめ」「折れ」も右利きが美しく書きやすいようにできているため、部分的な反転が起こることがある。
(3)毛筆では筆先の角度を右手で書く場合と同じように傾けないと、筆先がささくれ立ってしまい、文字そのものがかすれて運筆が上手にできない。
「左手では上手な字が書けない」
先入観が精神的な悪影響を及ぼす危険も
アルファベットの言語圏よりも複雑な文字の書き順を覚えなければならないだけでなく、毛筆においてはより繊細な筆先のコントロールを要求されます。
それにもまして「左手では上手な字が書けない」という先入観も災いし、ついつい左利きの子どもに対して「右手書き」を要求してしまう――子どもの未来を案じて先回りしてしまいがちな大人は、数こそ減れど消滅していません。