経営陣の大半もCIOと同様にITを評価してはいるが、自分では興味がない。なぜなら、種類や数も膨大で、技術進歩のスピードが速いため、およそついていけないからである。それゆえ、「CRMによって顧客により近づくことができる」「SCMによって適正在庫を実現できる」などの売り文句にだまされやすい。しかしこれでは、投資と資源配分を預かる者としての責任は果たせない。

そこで本稿では、シスコシステムズやBMW、イタリアのドゥカティ、ドイツのドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン、アメリカのドラッグストア・チェーンのCVS、フード・サービスのシスコ・コーポレーションなどの事例を引きながら、ITにうとい経営者のために、ITを3つに類型化することで、正しい理解に基づいてこれに投資し、経営者として適切なコミットメントを傾けるためのアドバイスを紹介する。

経営陣はIT戦略の責任を放棄している

 情報の時代にあっては、最良の時は最悪の時でもある。コンピュータのハードウエアはより高速化し、より廉価に、よりポータブルになっている。一方、マッシュアップ(異なる技術やコンテンツを融合して、新しい製品やサービスをつくり出すこと)、ブログ、ウィキ(ネットワーク上のどこからでも文書を書き換えられるシステム)、ビジネス分析システムなどが、人々の心をとらえている。

アンドリュー・マカフィー
Andrew McAfee
ハーバード・ビジネス・スクールの准教授。また、個人ブログandrewmcafee.org/blogを運営している。

 企業のIT投資は2001年、急激に落ち込んだが、そこから力強く回復している。1987年、アメリカ企業のIT投資は従業員一人当たり1500ドルだった。

 公に入手できる直近データは2004年のものだが、それによると、この金額は三倍以上に増え、5100ドルに達し、オフィス、倉庫や工場などの投資とほぼ同額に至っている。

 その一方、ITの効用が大きく喧伝されるにつれて、マネジャーたちは圧倒され気味のようだ。現在、企業が直面している最大の課題の1つは、市場にあふれるITをどのように扱えばよいのかである。

 経営陣にすれば、こうしたITシステムやアプリケーション、またそれらを示す頭文字(アクロニム)は何なのか、正確に理解するのは難しい。ましてや何を購入すべきかを決定したり、どうすればうまく導入できるかを判断したりするなど論外である。

 実際、ほとんどのマネジャーが、変化し続ける技術の荒海を進んでいくだけの意欲も力量も自分にはないと感じている。そのため、ITにはできるだけ関わらないようにしている。

 このような気後れの問題に加えて、これまでのITプロジェクトは期待外れの成果、失敗としか言いようのない結果に終わることが多かった。

 端的な例を挙げると、アメリカのドラッグストア・チェーン、フォックスメイヤー・ドラッグはITプロジェクトに1億ドルを投じたが、つまずいてしまい、チャプター・イレブン(連邦破産法11章)を申請して、97年に売却された。昨今では、このような致命的なケースは以前ほど多くはないが、プロジェクトへのいらだちや遅れによる落胆が蔓延している。