あるグローバル企業のCEOが地方大学の講演会に招かれ、ネットワークの中立性について発言した。この発言がブログに取り上げられ、物議を醸したが、ソーシャル・メディアに疎い彼は何の手も打たず、社内には失望感が広がった。一方、調理家電メーカー、ブレンドテックの創設者、トム・ディクソンは〈iPhone〉などさまざまな物を自社製品のミキサーで粉砕するという〈ユーチューブ〉の動画に登場して人気を博し、同社は急成長した。

グローバルで開放的、透明性と即時性という特徴を持つソーシャル・メディアには各企業が注目し、総合的な戦略を立てているが、企業リーダー自身についてはどうだろう。パーソナル・ブランディング、他者とのつながり、学習に関して有用なツールであるソーシャル・メディアを、企業リーダーも活用すべき時が来ているのではないだろうか。本稿では、ソーシャル・メディアを活用するリーダーの例を引きながら、そのメリットを論じると共に、メディア特有のリスクについても触れる。

企業リーダーとソーシャル・メディア:失敗例と成功例

 アメリカのある地方大学にグローバルなテクノロジー企業のCEOが招かれ、「インターネットの未来」をテーマに講演した。講演終了後、聴衆のなかから一人の学生が、ネットワークの中立性についてCEOの意見を尋ねた。ネットワークの中立性とは、「インターネット・サービス・プロバイダーは、ユーザーがアクセスするコンテンツに基づいて料金を決めてはいけない」という考え方だ。

スーミトラ・ドゥッタ
Soumitra Dutta
INSEAD 教授

 この質問に対しCEOは「コンテンツによる料金の差別化を支持する」という考えを率直に述べた。有意義な意見交換がなされ、CEOは満足して会場を後にした。

 しかしこの時、なかば私的なCEOの発言が、数日後に公共の場──ネット上のブロゴスフィア(ブログ圏)──で、CEOとその会社をめぐる激しい議論を巻き起こすことになろうとは思いも寄らなかった(なお本稿では、プライバシー保護のため、CEOとその会社の名前を伏せている)。

 このCEOは、ソーシャル・メディアの活用に積極的でなかった。〈フェイスブック〉や〈リンクトイン〉にプロフィールを持たず、〈ツイッター〉のアカウントも開いていなかった。会社のウェブサイトにもブログを置いていなかった。彼はソーシャル・メディアを「自分には関係ないもの」と決めつけていた。

 実際、複数の社員から広報部に通報があるまで、自分の発言がネット上で物議を醸していることに気づいていなかった。社内ではこの騒動に対応すべきか、また対応する場合にはどのような方法を取るべきかについて、長時間にわたり議論された。

 顧客や他のステークホルダーもネット上の議論に参加し、ネットワークの中立性に対する支持を声高に主張するようになり、社員たちは成り行きを見守った。会社として、私的な場で行われたCEOの発言に公式にコメントすべきなのか。CEOはこれまでブロゴスフィアに積極的に参加したことも、他のソーシャル・メディアのプラットフォームを利用したこともない。それでもネット上の公開討論を切り抜けられるのか。結局、CEOをはじめとする経営陣は何も手を打たなかったため、だれもがいらだちと失望感を味わうことになった。

 これとは対照的に、アメリカの調理用ミキサーのメーカー、ブレンドテック創設者兼CEOであるトム・ディクソンは、ソーシャル・メディアを使いこなしている。