1999年の株式売買委託手数料の完全自由化以降、急速に業績伸ばしてきたオンライン証券。今やオンライン証券大手5社の株式売買代金に占めるシェアは、70%を超えるほどまでになった。

 だが、ここ数年来の株価低迷を受けて株式売買は減少し、オンライン証券の業績も下落の一途たどっている。人気のFX(外国為替証拠金取引)は好調だが、オンライン証券は取引手数料を取らないため、「取引量が大きいのでトレーデングでそこそこには儲かる」(大手オンライン証券幹部)という程度でしかない。業績を押し上げる要因とまではいかない。

 もっとも、オンライン証券は販売チャネルがインターネット限定のため経費が少ないことに加え、株式売買代金のボリュームが大きくなったことから、「昨年夏場のようにまったく株価が動かない最悪期であっても、赤字は回避できる」(同幹部)。とはいえ、浮き沈みの激しい株式売買に頼りっきりのビジネスでは業績は安定しない。

 そこで、白羽の矢が立ったのが、株式投資信託だ。いったん購入してもらえば定期的に信託報酬が稼げる投信は安定収益を生み出す源泉となる。しかし、株式売買のシェア70%とは大きく異なり、投信設定額のシェアはわずか1.6%しかない。つまり、投信の大半は大手証券会社や銀行の店頭で販売されている。言い換えれば、販売する余地は大きい。

 そこで、オンライン証券大手5社のうち、投信を扱っていない松井証券を除く4社、SBI証券とカブドットコム証券、マネックス証券、楽天証券は、今年春に投信販売の共同プロジェクト「資産倍増プロジェクト」を立ち上げ、4社専用の投信を設定して7月から販売を開始した。

 その投信とは、以下の3本だ。

①優良な国内企業に投資する「日本応援株ファンド」

②ブラジルや台湾、南アフリカ、中国など新興国の中小型株へ投資する「新興国中小型ファンド」で、国内初となる商品

③)国内新興市場の株式へ投資し、ブラジルレアルで為替ヘッジしたうえ、毎月分配金が出る「新興市場日本株レアル型」

 だが、この3本の専用投信について、複数の金融専門家から苦言を呈する声が上がっている。

 それを集約すると、こうだ。①の投信はそう悪くない。だが、②の投信は手数料が高く、新興国の中小型株式への投資はリスクが高い。そして③の投信は、ブラジルレアルのヘッジ付きの毎月分配型投信は信託報酬が高いうえ、為替リスクもある。しかも大手証券が店頭で販売している商品と大差がない。そのような商品を、わざわざオンライン証券が専用投信として販売する意味があるのか、ただ単に店頭の客を横取りしたいだけではないのか、というものだ。

 金融関係者たちは、株式委託手数料がそうであるように、大手証券よりはるかに安い手数料で、オンライン証券ならではの特徴ある商品を期待していたが、その期待を裏切られたかたちとなった。

 ただし、オンライン証券側にも言い分はある。手数料が割安なインデックス投信などはすでに販売しているが、なかなか売れない。また、大手証券が店頭で販売している投信ならば販売時の手数料として3%ほど取られるが、上記の①~③はすべて無料(ノーロード)にしているし、信託報酬も大手証券よりは安い。加えて、シェアが1.6%程度しかなくては、投信をつくる運用会社に対して商品作りに関して無理を言えないという面もある。

 つまり、「指摘は分かるが、まずは売れ筋の投信を投入して店頭の顧客をオンライン証券に呼び込み、ボリュームを稼ぐことが先決」(別の大手オンライン証券幹)という戦略なのだ。そして、オンライン証券で投信を買うことが根付き、資産額が大きくなれば、「もっと低廉な商品を供給できるようになる」(同幹部)と考えている。

 期待と現実の狭間で両者の思惑はすれ違う。しかし、両者の根底にある思いは同じだ。それは、約60兆円ある投信販売の現状に風穴を開けたいというものだ。今、店頭で投信を購入している顧客の大半は70代や80代の高齢者で、薦められるがまま投信を購入している。大手証券や銀行にとって、まさしく“ドル箱”となっている。

 本来ならば投信は、個別の株式では投資できない新興国の株式への投資や、幅広く分散投資できるなどメリットがあるが、「それらのメリットは極力知らされず、高齢者に売りつけることに注力している」(金融関係者)。そこに風穴を開けてくれるのではと期待していた金融専門家たちが、大手と変わらぬ商品構成に対し、苦言を呈したというのが実情なのだ。

 11月には、東日本大震災の発生により延期された4社共同のイベントが行われ、合わせて第二弾となる新商品が発表される。その新商品は金融専門家たちを納得させることができるのか。注目である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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