約60年ぶりの金利水準は
「未体験ゾーン」に突入

 9月後半、米国の10年金利は1.8%台の水準に低下した。この水準は大恐慌の後の状況を引きずった1950年前後の水準、つまり約60年ぶりの水準だ。

 金融の市場化がいち早く進んだ米国には金融市場に習熟した市場参加者が多いが、そうした豊富な市場経験を持った人たちでも、今日、現役世代で足もとの水準を体験した者はほとんどいない。まさに、「未体験のゾーン」に突入したと言える。すなわち、過去の自らの経験が及ばない環境になったと考えることができる。

 一方、我々日本の債券市場に従事する参加者は、1990年台後半からすでに10年以上も「古今東西」前人未踏の未体験ゾーンを体験してきた。

 以上の米国での債券市場とそれを取り巻く市場参加者の状況も、本論で前回話題にした「Japanisation」(日本化現象)の一種と考えることもできるだろう。日本の市場関係者や政策担当者は、まさに未知のゾーンをこの10年以上生き抜いてきたのである。

 日本銀行が行なった量的緩和も時間軸政策も、実務上は日本が初めて導入したものだった。とかく、日本の金融関係者は金融の習熟度(financial literacy)に劣るとの表現をされることがあるが、日本の金融関係者はこうした未体験ゾーンでの金融の習熟度に関して、もっと自信をもってもいいのではないか。

従来の投資の常識では
判断できない世界

 金融も含めた経済学は、過去の経済事象を抽出し、理論化することで成立してきた。なかでも今日、我々が教科書とするような投資理論は、金融の市場化と信用拡張が急速に進んだ1970年代以降に成立したものであり、その歴史はせいぜい40~50年に過ぎない。