佐藤 日本の通商産業省が1982年に開始した「第五世代コンピュータプロジェクト」に対抗するために、国防総省と司法省の主導で設立された「マイクロエレクトロニクス・アンド・コンピュータ・テクノロジー社」のことですね。当時、通産省は「今後10年間で、570億円を投じて、人工知能マシンを開発する」と発表していました。これが成功すればアメリカの国防が危機に陥る、と思ったアメリカ政府が、国内のITの知識と研究を一つの場所に集積させることにしたそうですね。

ヴォーゲル 日本が官民一体で研究するなら、こちらも官民一体でという考え方です。政府主導でこのようなハイテク関連の研究所がつくられたのは初めてだったと思いますが、日本の経済開発システムに影響を受けたのは間違いありません。おそらく『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を読んで、日本に負けないような先端技術の研究を推進するには、日本の通産省のように政府が支援しなければならない、と考えたのでしょう。

トランプとアメリカの格差

『現代中国の父 トウ小平』 エズラ・ヴォーゲル著

佐藤 社会学の専門家であるヴォーゲル教授から見て、なぜ現代のアメリカ社会からトランプ大統領のようなリーダーが生まれたと思いますか。

ヴォーゲル 私の目から見ると、アメリカの格差は年々広がっているように思います、アメリカの経済は成長し続けているのだから、今は貧しくとも親の世代よりはよい生活ができる、という希望がアメリカの成長を支えてきました。ところが、どれだけ働いても生活はよくならない。学費が高いので、良い学校にも通えない。日本の子どもたちはどの都道府県に住んでいても、公立の学校に通っても、高い水準の教育を受けられますが、アメリカの子どもたちは裕福な人々が住む町の学校か、私立の学校に通わなければ、良い教育は受けられません。