私大でセンター試験利用入試が
増えている理由とは?
利益方程式をつくるうえで注意したいのは、「バリューポイント」と「マネタイズポイント」は必ずしも一致しない、ということである。バリューポイントとはその事業が顧客に価値を提供している点であり、マネタイズポイントとは収益を上げる点のことである。
たとえば、先に挙げた財務分析サービスでは、バリューポイントは財務分析サービスの利用であり、マネタイズはサービス内では完結していない。サービスの外にあるM&Aコンサルティングの潜在顧客確保につなげることで、はじめてマネタイズができる。
大学もバリューポイントとマネタイズポイントが違う。大学のバリューポイントは学生への授業提供だが、マネタイズポイントは必ずしも授業料ではないケースが多い。世界的に有名なハーバード・ビジネス・スクールは高い授業料で知らており、特に企業幹部(エクゼクティブ)向けのコースは2週間~1ヵ月で約600万円もする。
しかし、この授業料だけが収益源になっているわけではない。実は収益の40%は、年金運用といった投資活動により賄われているのだ。この投資活動の成果は好成績であることで知られている。
同様に、オックスフォード大学では11世紀から大学周辺の土地を所有し、マネタイズを行っている。大学のブランドが強くなることで、オックスフォード周辺の土地の価格も上昇し、土地の管理がオックスフォード大学の収益となっているのだ。詳細は拙著『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』を参照していただきたい。
日本の私立大学なども、センター試験で複数の学部を受験できるよう制度を変更している。電車広告などで私立大学の受験制度を見た人も多いかもしれない。これは、少子化で受験生が減り、授業料による収益源が減少傾向になるなかで、受験料をマネタイズポイントにしようとしているのだ。
このように、バリューポイントとマネタイズポイントを切り離して利益構造を考えることで、新しく見えてくるものも多い。
利益が創出される構造を言語化することで、チーム内での事業検討や社外への資金調達などに役立てることが可能になる。言語化の際に重要なのは、顧客にとってのバリューポイントとマネタイズポイントが必ずしも一致しない点だ。長期的な一歩引いた目線で事業を検討することが重要と言える。
山口揚平(やまぐち・ようへい)
早稲田大学政治経済学部(小野梓奨学生)・東京大学大学院修士。1999年より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと、独立・起業。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供する。2010年に同事業を売却したが、のちに再興。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本参入、ECプラットフォームの立ち上げ(のちにDeNA社が買収)、宇宙開発事業、電気自動車(EV)事業の創業、投資および資金調達にかかわる。その他、Gift(ギフト:贈与)経済システムの創業・運営、劇団経営、世界遺産都市ホイアンでの8店舗創業(雑貨・レストラン)、海外ビジネス研修プログラム事業、日本漢方茶事業、医療メディア事業、アーティスト支援等、複数の事業、会社を運営するかたわら、執筆、講演活動を行っている。専門は貨幣論、情報化社会論。 NHK「ニッポンのジレンマ」論客として出演。テレビ東京「オープニングベル」、TBS「6時のニュース」、日経CNBC放送、財政再建に関する特命委員会 2020年以降の経済財政構想小委員会に出演。慶應義塾高校非常勤講師、横浜市立大学、福井県立大学などで講師をつとめた。 著書に、『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』(ランダムハウス講談社)『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座』(日本実業出版社) 『世界を変える会社の創り方』(ブルー・マーリン・パートナーズ)『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)『10年後世界が壊れても君が生き残るために今身につけるべきこと』(SBクリエイティブ)などがある。