「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう? ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が好評だ。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。
「優れたリーダー」か否か、会議室に入った瞬間にわかる
「優れたリーダー」か「ダメなリーダー」か……。
その人物が主催する会議を見れば一目瞭然。
会議室に入った瞬間にわかる、と私は考えています。
優れたリーダーの会議にはポジティブな空気がみなぎっています。
参加者全員が、「思ったことを発言してもいい」「もしも、的外れなことを言ってしまっても危害を加えられることはない」という安心感があるから、前向きで自由闊達な雰囲気が生まれるのでしょう。そして、さまざまな意見が飛び交うなかで、想定外の優れたアイデアが生まれる。リーダーが下した結論に対する納得度も高い。だからこそ、その結論を実行するチームワークが機能するわけです。
一方、ダメなリーダーの会議は重苦しい空気で支配されています。
よく見かけるのは、リーダーの独演会になっているか、リーダーが信頼する数人のメンバーだけが発言しているケース。それ以外のメンバーが何かを口にしても、言下に否定されたり、途中で遮られたりする。その結果、萎縮したメンバーが押し黙っていると、今度は、「発言しない人間はいらない」などと追い詰められる。これでは、会議は死んでしまうに決まっています。
そして、数人の偏った意見に基づいた結論が下され、他のメンバーはイヤイヤながらもその結論に従わざるを得ない。このような会議をいくらやっても、生き生きとしたチームワークなど生まれるわけがないのです。
なぜ、このようなことが起きるのか?
リーダーが思い上がっているからです。「自分は答えを知っている」「メンバーのなかで、自分がもっとも優秀だ」……。無意識的であっても、このような思いをもっているがために、部下の話を聞くことができない。むしろ、「答えを教えてやらなければならない」などと“上から目線”になってしまう。その結果、会議を制圧しようとしてしまうのです。
その意味で、注意が必要なのは、プレイヤーとして優れた実績を出してきたリーダーです。実績というものは、メンバーにとっては権威そのもの。実績をもつリーダーであるというだけで、他のメンバーを“黙らせる”には十分。そのうえ、「実績をもつ自分は答えがわかっている」などと思っていると、アッという間に会議を殺してしまうでしょう。