「答えがわからない」という臆病さをもつ

 しかし、ビジネスにおいて「答え」をもっている人間などいるでしょうか?
 ビジネスは、あらかじめ「正解」が用意されているテストとはまったく異なります。ビジネス環境は刻一刻と変化を続けており、過去の実績に基づく方法論が通用するとは限りません。「昨日の正解が今日の不正解」というのがビジネスの現実なのです。

 そもそも、ビジネスとは、リソースを投入してリターンを得る活動です。つまり、リターンを得られるかどうかは、未来になってみなければわからないということ。そして、どこにも未来がわかる人間などいません。であれば、ビジネスにおいて「答え」がわかっている人間というのは、原理的にありえないはずなのです。

 優れたリーダーになるためには、この点を強く認識しておく必要があると、私は思っています。いや、臆病でなければならない。「自分が正しいと思っていることが、本当に正しいのだろうか?」「自分が答えだと思っていることは、間違っているのではないか?」と懐疑的でなければならないと思うのです。

 だからこそ、部下の意見にも真摯に向き合おうとし始めるからです。「自分には答えがわからない」と考えているリーダーは、まさか会議で部下が自由に意見するのを妨げようとは考えないでしょう。自分が話すよりも、さまざまな部下の意見に耳を傾けることによって、その時点における最適解を発見することに集中するはずなのです。

 もちろん、部下に好き放題に発言させればいいわけではありません。
 しかし、チームに秩序を与えるのは、リーダーの統制ではありません。重要なのは、日ごろからリーダーが、メンバーに正しい目的意識をもってもらうように働きかけること。そして、それぞれの持ち場で、その目的のために全力で取り組むように励まし続けることです。正しい目的意識をもって、仕事に真正面から取り組んでいる部下であれば、必ず、チームに貢献するために発言しようとするはずです。リーダーが会議を過剰にコントロールするのをやめても、メンバーが好き放題に発言して、会議が迷走するような事態を招く心配は不要なのです。

 そして、発言者の年次や実績によって序列をつけるようなことは厳に慎むべきです。すべての部下の意見は傾聴に値します。新入社員であれば、社内の“常識”に染まっていないからこそ、古参メンバーが見落としていることに気づかせてくれるかもしれません。あるいは、現場でユーザーと直接コミュニケーションを取っている若手社員には、リーダーにはわからない肌感覚に裏打ちされた意見があるはずです。そこには、必ず、リーダーにとって意味のあるヒントが隠されているのです。

 むしろ、発言力のあるベテランに注意をしたほうがいいでしょう。万一、チーム内に実績や年次を背景に会議を“制圧”しようと、他のメンバーの意見をないがしろにする人物がいれば、その人物こそが邪魔者。リーダーが毅然として、そのような言動をやめさせる必要があるのです。