強いライバルが現れたら、「戦う土俵」を変える
ライバルの動向にも臆病でなければなりません。
いちはやくグローバル競争に突入したタイヤ業界では、世界中のタイヤメーカーと熾烈な競争を強いられてきました。ブリヂストンは2005年に、ミシュランを抜いて世界トップシェアを奪還しましたが、それでも一瞬たりとも気が抜けない。突然、新興国の企業が安価な商品を投入してくるかもしれないし、巨大企業がM&Aでシェアを一気に高めるかもしれない。その動向を臆病な目で見つめ、敏感に反応できなければ、アッという間に足をすくわれてしまうのです。
私がCEO在任中に恐れたもののひとつが、新興国企業の躍進です。彼らは企業規模では劣るものの、それだけに動きが機敏。しかも、人件費が安いために強い価格競争力をもっています。スピードとコストで、ブリヂストンのような巨大な組織の足元を脅かす存在なのです。
そこで、私は「4倍速」というキャッチフレーズを掲げ、全世界の社員たちに仕事のスピードアップを強く要請。新興国企業にできる限り「つけ入る隙」を与えないように鼓舞し続けました。
ただし、それだけでは限界があることもわかっていました。
たとえば、すでにコモディティ化している汎用の乗用車用タイヤでは、新興国企業に勝ち切るのは難しい。もちろん、小型車の増加とともに需要が急増しているゾーンなので、そのシェアはできる限り維持する必要はありますが、新興国企業と同じやり方をしていては未来が危ぶまれる。このゾーンのタイヤの大半の需要は新興国で大きくなっているので、彼らの方が有利という現実もある。であれば、不利な戦いを続けるのではなく、「土俵を変える」必要があると考えたのです。