「不安」で仕方がないから、「現場」に足を運ぶ
そう考えると、私は恐ろしくて、「3現」から隔絶された社長室に閉じこもることができませんでした。
もちろん、社長は多忙。矢継ぎ早に会議・面談をこなさなければなりませんし、重要な意思決定も次から次へと下さなければならない。まさに分刻みのスケジュールです。しかも、会社の未来について沈思黙考する時間も重要。「3現」を体感する時間はきわめて限られてしまうのが現実です。
しかし、時間は生み出すものです。だから、私は、少なくとも重要な案件については、なんとかスケジュール調整をして、「3現」を自ら体感するようにしていました。そうでなければ、不安でならなかったからです。
たとえば、新設工場を建設するときには、どんなに時間がなくても必ず現地に赴き、建設前の更地を五感で体感するようにしていました。もちろん、予定地の情報や工場の図面はオフィスで見ることができますが、それだけでは腹が固まらないからです。
単に、予定地を見るだけではありません。政府関係機関、自治体担当などの対応を注意深く調べる。予定地の近くに町があれば、必ずそこも車で案内してもらいます。そして、「スーパーなど生活に欠かせない施設は充実しているか」「幼稚園や小学校など子どもの教育施設はどうか」「町が荒れているようなことはないか」「町から工場までの交通機関はどうか」など、工場で働く人々の目線で確認。いくら立派な工場ができても、従業員の生活に不便があれば、うまく機能しないからです。
また、国によっては、飛行場や港湾など、資材や製品が流通するルートも辿ります。そこに無理があれば、いずれ必ず問題になるからです。だから、現地にヘリコプターで乗り付けるなどもってのほか。悪路であっても車でガタガタ揺られて、工場稼働後に従業員がするのと同じことを体験する。土地の風景の真っ只中に身を置いて、土地の空気を吸い込んでおく。このプロセスを経なければ、「ここで間違いがない」という確信が得られない。社長が負うべき責任を負う覚悟が固まらないのです。