何百万という人々が毎日、企業活動に自発的に貢献している。しかも無償で――。このことは、経験豊富なビジネス・リーダーにすると、腑に落ちない。しかし、アマゾン、イーベイ、グーグル、ウィキペディア、ユーチューブ、スカイプなど、ユーザーの無償の貢献をビジネスモデルの中核に据えて成功した例は枚挙に暇がない。またこれらネット企業以外にも、ホンダ、P&G、ユニリーバ、ハイアット・ホテル、ベスト・バイなどの伝統的大企業が、ユーザーの貢献から多大な成果を上げている。

財務ソフト大手のインテュイットは、これらの企業に倣い、組織外の無数の人々による貢献を活用するようにビジネスモデルの大転換に取り組み、着々と成功を重ねている。

ユーザーの自発的貢献によって競争優位を築く

 私は先日、インテュイットの幹部70人と共に、一室で緊迫した半日を過ごした。社外の人々の自発的な時間と労力、経験を、我々の顧客の生活を向上させるために活用するにはどうすればよいのか、その方法を考え出すことが目的であった。

スコット・クック
Scott Cook
カリフォルニア州マウンテンビューを本拠地にする財務ソフトならびにウェブ・サービス会社、インテュイットの共同創設者であり、現会長である。プロクター・アンド・ギャンブルおよびイーベイの取締役会のメンバーでもある。クレイトン・クリステンセン、タディ・ホールと共に"Marketing Malpractice," HBR, Dec. 2005.(邦訳「セグメンテーションという悪弊」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2006年6月号)を共同執筆している。

 奇妙に聞こえたかもしれない。しかしあなたの組織でこのような試みがなされていないとすれば、それは、ビジネスを一変させるような大変革の波のなかで、せっかくのチャンスを逸しているといえる。

 何百万人という人々が企業のために、たとえばしかるべき情報に裏づけられた意見、PCの余剰能力など、さまざまな貢献を自発的に果たし、その企業の顧客、そして結果的にその株主のために多大な価値を創出している。

 数年前、最初にこの概念に遭遇した時の印象は、何ともとらえどころのないものだった。ボランティアは慈善行為のためであり、利益を旺盛に追求する企業のためになされる行為とは考えられなかったからだ。

 しかし、この驚きは始まりにすぎなかった。やがて私は、ユーザーの自発的貢献が、世界でも最も成長著しく、高い競争優位を築き上げた組織の機動力となり、コスト構造を大幅に縮小することで、業界全体の経済に大変革をもたらしつつあることに気づき始めたのだ。