自分の短所を強みに変える

 逆転の発想は、自分のハンデや短所などにも応用することができます。たとえば私は、小学校時代から社会人になっても、ずっと吃音に悩まされ続けてきました。会社員時代は電話をうまく取ることができずに、とても悔しい思いをしました。

 しかし、独立し、講師として自分という「商品」を人に売らなくてはいけなくなったときのこと。ふと「人と差別化できることって何だろう」と考えたとき、自分には何も思い浮かばなかったのです。

 そのときに思いついたのが「吃音」でした。これは、確かに人とは違います(マイナスの意味で)。私はずっと「これさえなかったら、自分はもっと認められるのに」と、吃音がある自分を認めていませんでしたが、これは見方を変えれば、間違いなく自分の個性です(さんざんつらい思いもしてきましたが)。そこで、思いきって「吃音を乗り越えて講演をしています」というメッセージをプロフィールに入れてみました。すると、数ヶ月たったある日、とある労働組合から講演の依頼があったのです。「あなたの話を聞きたい」と。

 そのとき、私の中で、何かが変わりました。

「世の中には、僕の話にお金を出して聞きたいと思ってくれる人がいるのか」

 そうです。これまでハンデだと思っていたことが、自分をアピールする強みに変わったのです。それ以降、吃音である自分が逆に自信となり、堂々としていたら、いつの間にかその症状もほとんどなくなってきました。

 また、吃音者は普通の人に比べて、言葉に対する感覚が繊細です。なぜなら、いつも頭の中で、しゃべる際にどもらない言葉を必死に選んでいるからです。実はその能力は、翻訳という作業にまさに求められるものです。

 私は幸い、翻訳者としてもお仕事をいただく機会がありますが、これも、もしかしたら、吃音を持ったことによるメリットだったのかな、と思っています。

 皆さんにも、自分で認めたくないハンデやコンプレックス、生まれ育った境遇があるかもしれません。周りの人は、それを笑ったり、馬鹿にしたりするかもしれませんが、その見方もひとつに過ぎません。要は自分で、それに価値を見出す見方を発見すればいいだけです。