こうした強力なトップの跡を継ぐのは誰であっても、周囲には力量不足に映るかもしれない。つまり、会社にとってリスクになるかもしれない。1人の後継者に経営を託して失敗するということは、様々な企業の失敗談としても語られている。

 リスクというものは、将来性の予測ができるかどうかという問題であり、時間経過によって下がっていくものである。期待が高かった経営者が時間経過とともに化けの皮が剥がれたり、反対に期待が低かったにもかかわらず大化けして優れた経営者になったりすることもある。いずれも、リスクは時間経過とともに判明する。

TSMCチャン会長に見る跡継ぎ問題
リスクある意思決定を先送りする戦略

 将来の予測が立たないときに将来性のリスクを下げる方法は、ダメだったときのオプションを複数持っておくことだ。トップの後継人事であれば、複数の後継者が指名されていれば、どちらかが優れたトップに成長する可能性があり、リスクが低減されることになる。

 つまり、今迅速に人事の意思決定をしなければいけない状況において、リスク要因の意思決定だけを先送りして将来の決定に委ねるという役割が共同CEOにはある(リスクがある意思決定を先送りする意思決定の仕方を、リアルオプション的な意思決定という)。

 TSMCのケースでは、チャン会長が高齢になり、今、後任人事の意思決定をしなければならない必要性がある中で、チャン会長ほどのカリスマの後任が簡単に見つからないというリスクが存在している。そこで共同CEOという形を取って、足もとで後任にポストは譲るものの、最終的な後継者の指名だけは後々に先送りにするという、意思決定の先送りを行っていると考えられる。

 シャープにしても同じだ。シャープや東芝ライフスタイルといった家電メーカーが、台湾・中国企業の傘下に入って早期に経営状況が回復したのは、ある意味当たり前のことだ。この連載でも度々指摘したことだが、日本メーカーには優れた技術力を持った強い現場がある。しかし、それをうまく使いこなして収益化を図れなかった経営者の力量不足が、日の丸家電の低迷を招いたのだ。

むしろ、強い技術力を備えていたわけではない台湾・中国企業が、限られた経営資源の中で知恵を絞って這い上がってきたその知恵こそが、経営者の力量だったのだろう。