「やりたいこと」を追いかけてはいけない

 本書で私は、多くの人々の体験談を紹介するが、それらはすべて実に当たり前の一文に収束する。

 それは、「できること」、つまり能力の重要性である。

 素晴らしい仕事を実現するには、希少で価値ある能力が必要だとわかった。素晴らしい業績を望むのならば、代わりに希少で価値あるものを差し出さねばならない。

 自分が何かに秀でない限り、素晴らしい仕事など、成し得ないのである。

 もちろん、何かに秀でたからと言って、幸福が保証されるわけではない。尊敬を勝ち得ても、惨めな仕事漬けから抜けられない例は多い。ここで重要なのは、有用なスキルは単に獲得するだけでなく、これを「キャリア資本」として正しく投資するという技である。
 
 つまり、あなたの仕事と人生を幸せにするような方向にスキルを磨き上げるのだ。
 
 この主張は、世間一般の通念を覆すものである。

 「やりたいこと」という感情はあとまわしだ。

 仕事が順調なら、やりたい気持ちが湧いてくるものだからだ。

「『やりたいこと』を追いかけてはいけない」

 私の大好きなスティーブ・マーティンの言葉を借りれば、「誰もが思わず注目してしまう、『突き抜けた人』になる」ことで、夢はかなうのだ。

 この本では具体的にアドバイスを述べてはいるが、ステップシステムや自己診断テストはない。このテーマは複雑なので、公式化できないのだ。

 最後まで読んでいただければ、私自身の例がどうなったのか、この考察を自分の仕事に具体的にどう適用したのかがわかると思う。

 本書で紹介する考察を通して、「やりたいことを追求しよう」や「好きなことを仕事にせよ」といった、今日多くの人の職業観を惑わす結果を招いているキャッチフレーズから読者を解放し、代わりに有意義で魅力的な仕事そして人生への現実的な道を提示したい。