能力の低い人ほど
自分を過大評価しやすい

 誰もがポジティブイリュージョンを抱えており、自分の能力を過大評価する傾向があることは、第3回の「誰もが「自分は正当に評価されていない」と思う心理学的理由」で解説した通りである。それに加えて、能力の低い人ほど自分の能力を過大評価する傾向が強いことがわかっている。

 心理学者のダニングとクルーガーは、そのことを証明するための実験を行っている。その実験では、「ユーモアのセンス」などいくつかの能力に関するテストを実施し、同時に自分の能力についての自己評価を求めた。

 自分の能力の自己評価は、パーセンタイルを用いた。これは、自分の能力が全員の中で下から何%のところに位置するかを答えるものである。例えば、20パーセンタイルというのはかなり下の方に位置し、50パーセンタイルはちょうど平均、80パーセンタイルになるとかなり上の方に位置することになる。

 被験者を成績順に4等分し、上位4分の1に属する「最優秀グループ」、以下、「平均より少し上のグループ」、「平均より少し下のグループ」、下位4分の1に属する「底辺グループ」に分けた。

 まず「ユーモアのセンス」についての結果を見ると、「底辺グループ」の平均得点は下から12%のところに位置するものだった。ゆえに、「ユーモアのセンス」は極めて乏しいと言わざるを得ない。

 ところが、「底辺グループ」の自己評価の平均を見ると、58パーセンタイルになった。これは50パーセンタイル(平均)を超えており、「底辺グループ」の人たちは自分の「ユーモアのセンス」は平均的な人より上だと思い込んでいることがわかる。

 つまり、実際には下から12%の実力しかないのに、本人たちは平均より上と思っているのであり、自分の能力を著しく過大評価していることになる。一方、「最優秀グループ」ではそのような過大評価は見られず、むしろ逆に自分の能力を実際より低く見積もる傾向が見られた。

 もう一つ「論理的推論の能力」についての結果を見ても、「底辺グループ」の平均得点は下から12%のところに位置するものだった。ゆえに、「論理的推論の能力」は極めて乏しいことになる。

 ところが、「底辺グループ」の自己評価の平均を見ると、68パーセンタイルとなっており、50パーセンタイルを大きく上回っていた。ここでも、「底辺グループ」の人たちは、自分の「論理的推論の能力」は平均よりかなり上だと思い込んでいることがわかる。一方、「最優秀グループ」ではやはり過大評価は見られず、自分の能力を実際より低く見積もる傾向が見られた。

 このような実験により、ダニングとクルーガーは、能力の低い人ほど自分の能力を著しく過大評価しており、逆に能力の特に高い人は自分の能力を過小評価する傾向があることを実証してみせた。このことをダニング=クルーガー効果という。