日立の人型ロボット、技術の象徴から「商品」へ脱皮した3代目馬場淳史・日立製作所機械イノベーションセンタ ロボティクス研究部部長 Photo by Masato Kato

 日立製作所の研究開発部門のホープ、馬場淳史が人型ロボット「EMIEW(エミュー)3」の開発チームを率いるようになったのは2015年のことだ。

 当時は、ソフトバンクが「Pepper(ペッパー)」を発売するなどロボットブームだった。05年に初代EMIEWを発表するなど先行して人型ロボットを開発してきた日立は次にどんなロボットをつくるのか──。

 馬場は“製造業の威信を懸けたプロジェクト”の重荷を背負うことになった。

 馬場の専門は原子力だ。11年の東日本大震災後の2年間は、東京電力福島第一原子力発電所事故の現状把握などに追われた。

 その後、日立の技術開発の中枢、研究開発本部技術戦略室に異動。社内の技術を組み合わせて開発プロジェクトを動かした。その実績が人工知能(AI)や通信など幅広い技術を束ねるロボット開発を指揮するきっかけになった。

「赴任したときは、次のロボットはどうするのか真っさらな状態だった」(馬場)

 日立の人型ロボットは初代EMIEWからEMIEW2、3と、世代別に明確に区分されている。これは「一度開発を終えると投資額に対して何を得たのかを自問し、反省する期間が少なからずあった」(日立幹部)からだ。

 こうした経緯や競合の動向を踏まえ、馬場が打ち出した方針は「サービスの現場で使え、売れるロボットをつくる」というものだった。