金融緩和政策の行きつく先として、日本銀行は非伝統的金融政策として未曽有のエリアに踏み込み、量的金融緩和、そしてマイナス金利まで導入した。経済原理的には、おカネの量を増やし金利を下げて行けば、景気も良くなりインフレにもなるというのが教科書に書いていることだ。ここで、筆者が経済学者として気になった点が二つあった。
アベノミクス2つの課題
一つ目は、政策の目標として、通貨(貨幣)の量で影響を与えやすいインフレの方を優先したという事である。実は、先進国には共通の経済目標がある。「経済成長率(景気)3%とインフレ率2%」というものだ。
しかし、先進国の経済は成熟化したため、経済成長率も低下した。インフレ率の方は、まだ通貨の量によって直接的に影響を与えやすい。そもそも、金融政策は景気の引き締めには効くが景気刺激には効きにくい性質を持っている。
インフレ率を直接の目標とするのはいいとしても、国民にとってみれば、インフレになることは歓迎できない事態だ。その部分がすでに乖離していた。なぜ、インフレにして我々を苦しめるのか、と。
もう一つは、マイナス金利の「やりすぎ感」である。下げれば下げるほどいいというものではない。黒田総裁も言い始めたが、最近は「副作用」の方が「作用」を上回ってきた。「リバーサルレート」という考え方で、下げれば下げるほど、逆に景気に対し悪影響を与える。
このマイナス金利下の低金利が、金融機関の収益(経営)を悪化させた。中央銀行たる日銀は銀行ヒエラルキーのトップにある。そのトップが銀行の経営を悪化させるとは、やるせない。金融には机上の研究だけでは分からない部分がある。この辺も実際にリアルな経済や市場を見ていないと分からない。