EU新条約で欧州危機は食い止められるか
ユーロ圏問題の根本は諸国間の「経済格差」

 ユーロ圏の信用不安問題に歯止めをかけるため、ドイツとフランスが打ち出した政策は、EU条約を改正してユーロ諸国の財政規律を強化することだった。ユーロ加盟国に対して財政を監視する機能を強化し、規律に違反した国に対してより厳しい制裁を科すことを目指している。

 この政策は、ユーロ圏諸国をドイツ流の政策運営の枠の中に入れることを狙ったものだ。言い方を変えると、ユーロをドイツのような国に替える、つまり「ユーロ圏諸国のドイツ化」と言っても過言ではないだろう。

 この政策には、大きな2つの問題がある。1つは、この政策には時間がかかるため、足もとで燃え盛るギリシャやイタリアの信用問題の解決にならないことだ。EUの条約を変えるためには、加盟各国政府の承認を必要とする。それには、少なくとも数ヵ月単位の時間がかかる。

 一方、ギリシャの債務再編問題やイタリアの国債借り換えは、極めて差し迫った問題であり、タイムスパンが大きく異なる。

 もう1つは、ユーロ圏諸国がドイツ化すると、ユーロ圏諸国の経済状況は長期衰退の方向に向かう可能性が高まることだ。

 ユーロ圏諸国の信用不安問題の根本は、一部の例外を除くと、基本的に国際収支の問題だ。ギリシャなど相対的に競争力の低いユーロ圏諸国は、借入金=国債発行に依存して経済成長率を高めてきた。その一部はドイツの輸出につながり、ユーロ圏全体の経済を活性化する要因の1つになっていた。

 ところが、ユーロ圏諸国がドイツ流の厳格な財政政策に転換すると、財政による景気刺激は難しくなり、ユーロ圏全体の経済活動は低下する。ドイツのユーロ圏諸国向け輸出も低下するだろう。ということは、ユーロ圏諸国のドイツ化は、問題の根本を誤認した解決策ということになる。

 ドイツについては、メルケル首相が云々というより、ドイツ人の多くは、ユーロ圏の信用不安問題の根本的な原因が、ギリシャやイタリアなど財政規律に対する意識の甘さにあると考えている。財政赤字を垂れ流す安易な政策運営によって、足もとの問題が燃え上がったという理解だろう。