「植田さん、あのプロジェクトの件です。先日は失礼なことをお話ししてしまい、申し訳ございませんでした。納期を遅らしてでも御社でお願いできないでしょうか」
「どうされたんですか?」と植田は尋ねる。
「実はその後このプロジェクトについて、Y社の有田さんに担当させる話が進んでいたのですが、Y社はコンプライアンス上、問題のある会社ということがわかり、Y社との取引を全て終了させることになりました」

 翌日、別の取引先からも、納品先とY社の取引終了に関する情報が入った。

 Y社の従業員の一部が、残業代未払いの問題で会社を訴えるという話が納品先の耳に入ったため、Y社との取引は全て終了すると判断したようだ。

転職先はブラック企業
退職を後悔する有田

本連載の著者・石川弘子さんの
『あなたの隣のモンスター社員』
が好評発売中!
文藝春秋刊、750円(税別)
職場トラブルに悩む
ビジネスパーソン必読本!

急増するモンスター社員の相談例。一見普通の人にしか見えないモンスターたちは何を考えているのか――。特徴や心理を解き明かしながら、対処法や組織作りをわかりやすく解説

 さらに有田の同期だった徳井のところにも、その後有田から連絡が入った。徳井によると「Y社は残業代も払わないし、パワハラも横行しているブラック企業であり、有田は退職したことを後悔している」とのことだった。

 植田部長は、有田に裏切られたことで怒り傷ついていたが、それ以上に自分自身が管理職として、あまりにお粗末だったと猛省していた。しかし今回の出来事によって、植田が大きな気づきを得たことは間違いなく、危機を乗り越えた部長の働きぶりは、誰の目にも頼もしい管理職に見えた。

 プロジェクトは何とか納期に間に合わせて無事に納品した。取引先も思った以上のクオリティだったと喜んでくれたため、植田部長はたまっていた疲労も、達成感と喜びで一気に吹き飛んだようだった。

 退職時には、その人の人間性が出るという。世間は意外にも狭く、自分の仕事の評判が転職先にも伝わらないという保証はない。特に同業界であれば、取引先や知人からの情報で伝わっていることが多いだろう。

「立つ鳥跡を濁さず」気持ちよく送り出してもらうために、周囲への気配りには細心の注意を払ってもらいたいものである。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。