「参酒」と名付けられた3種の利き酒に、肴は3点盛り合わせ。微粉にこだわった蕎麦の香りと甘みは、ふわっと広がり、はかなく消えていく。その名残惜しさに、ついもう一枚ほしくなる。藍色の暖簾をくぐり、江戸の粋蕎麦をとっくりと味わいたい。

小平駅北口からほんの数分
開店以来、客足の絶えない店がある

 西武新宿沿線には手打ちで知られた店が多い。その中でも、開店当初からすぐに名を上げ、蕎麦特集の本があれば必ずいっていいほど掲載されてきたのが「吟」だ。

「手打ちそば 吟」。小平駅北口から数分。2004年の開店当初から注目を浴び、以後客足が絶えない人気店だ。

 小平駅北口からほんの数分。藍色に染められた暖簾生地に、「吟」の文字が白く浮かび上がっている。藍色の暖簾が朱色の引き戸によく映えて、そのコントラストが蕎麦屋の粋を演出していた。

 戸を開けると2畳ほどの縦長の空間に玉砂利が敷き詰められ、飛び石が並ぶ。茶の湯でいう待合の風情が演出されているようだ。ある人がこの風情を、“すでにそこには蕎麦屋酒の非日常的な入り口がある”と表現していたことを思いだした。

 僅かに音が鳴る玉砂利を踏み、江戸蕎麦の趣を感じながら店に入ると、これから始まる宴に心が弾むようだ。

 店内は4人掛けのテーブルが2つと2人掛けテーブルが2つの12席だけ。この小体な蕎麦屋に、ここ数年客が絶えることが無い。

店内のテーブル席では落ち着いた会食ができる。飾り窓には自筆の額があり、「輪廻転生、そば行路、我がみもそうと憧きがらす」(蕎麦の実も花も茎もすべてが役に立つ、それは自分の蕎麦人生もそうありたい、の意)と書かれていた。蕎麦職人は哲学をする人だった。